「俺は小説家になる」と申しております

背中の風

「ほらー、いつまで寝てんのよ。さっさと起きて、朝食作ってよ」

継母の怒鳴り声で目が覚める。

掃除、洗濯、炊事、買い物すべての家事をやらなければいけなかったから、夜遅くまで勉強する時間はないのだけど、それでも、大検の資格を取りたくて笑実(えみ)は、時間を見つけては学びの時間を大切にしていた。

大検を取って、簿記くらいは身に着けたい。

父がなくなるまでは、優しかった継母も父がなくなってからは、家政婦のように笑実をこき使う。

父が亡くなったとたんに通っていた高校の学費も払ってくれなくて、やめるしかなかった。

それでも、持ち前の明るさで今日まで乗り越えてこれたのだ。

父が亡くなったとたん、家に若い男を連れてくることも増えて、少しの間休む場所さえなくなっていった。

何とかしてお金をためて、アパートを借りて家から出たかった。今は2月。あと1か月の辛抱。

笑実は、3月で18歳になる。そうすれば成人とみなされる。

「あと、1か月我慢すれば、母の連れてくる若い男からいやらしいことを言われることもなくなるのだ」

姿勢を正し、顎を引いて、しっかりを前を見て歩こう。

どんなつらいことも、幸せな明日のための試金石。

「1.2ーーーー」

こうすれば、自然と口角も上がる。

どこからともなく、水仙のさわやかな香りがする。

思わず深呼吸したくなるようなさわやかな香り。

ふと見まわすと、日本水仙が如月の風とそよそよ戯れている。


春風が穏やかに吹き抜ける日、彼女は窓辺に佇んでいた。目の前に広がる公園では桜が満開で、花びらが舞い散る様子が、心を穏やかにしてくれた。

彼女の心は静かな刹那に包まれていた。背中には昨日までの疲れが残っていたが、新たな日が始まるという期待に胸が高まる。そんな気持ちを抱えながら、彼女は少し深呼吸をして、今日も歩き出そうと決めた。

彼女は小さなカフェで働いている。そのカフェはおしゃれな雰囲気で、お客さんたちがほっと一息つける場所だった。彼女の仕事はコーヒーを淹れること。毎日さまざまな人々が彼女のカウンターに立ち、彼女の淹れたコーヒーを楽しんでいく。

ある日、ひときわ寒い風の吹く中、老いぼれた男性がそのカフェに入ってきた。彼女は彼のために温かいコーヒーを淹れ、静かな笑顔で接客した。そのとき、男性は驚くようなことを口にした。

「君の笑顔、背中が軽くなるような気がするんだ。」

言葉に戸惑いながらも、彼女は微笑みかけた。その瞬間、彼女は自分の背中に何かを感じたような気がした。それはまるで風に包まれているかのような、軽やかな感覚だった。

その日以降、彼女は仕事中にもっと笑顔になるように努めた。そして驚くべきことに、その笑顔がお客さんたちにも伝染していった。カフェは笑い声に包まれ、彼女の周りには温かい雰囲気が広がっていった。

ある日、カフェに訪れた若者が、彼女に声をかけてきた。「あなたの笑顔、本当に素敵だね。背中が軽くなる感じがするんだ。」

彼女は驚きながらも、その若者に感謝の言葉をかけた。そのとき、彼女は自分の背中に触れてみようと思った。指先が軽く触れると、まるで空気のように心地よい感触が広がった。

それ以降、彼女は笑顔を大切にし、その笑顔が人々に幸せを運んでいるような気がした。彼女の背中には、軽やかな風がそっと寄り添っていた。