違うからこそ、愛してる

春秋花壇

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出したらしまう

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『出したらしまう』

セシルの新しい生活習慣には、まだ慣れない部分も多かった。ロジェの提案で始まった「整理整頓特訓」は、シンプルなルールを繰り返すことが鍵だった。その中でも「出したらしまう」という教えは、セシルにとって最大の課題だった。

「セシル、これはどういうことかな?」
ロジェが部屋を訪れたある日、彼はベッドの上に散らばった本や服を指差した。
「えっと……読んだ後で片付けようと思ってたの。」
セシルは言い訳がましく笑った。

ロジェはため息をつきながら微笑む。
「読んだらすぐに片付ける。それがポイントなんだ。後で片付けるって言ってると、結局散らかるだけだよ。」

彼の言葉にセシルはうなずいたものの、内心では「そんな簡単に言わないでよ」と反発していた。

ロジェは特訓のために「タイムチャレンジ」を提案した。
「いいかい、これから机の上を片付ける。タイマーをセットするから、3分以内に終わらせるんだ。」
「えっ、そんな短い時間で片付けられるわけないじゃない!」
「やってみるだけだよ。ほら、スタート!」

タイマーが鳴ると同時に、セシルは机の上に散らばるペンやメモ帳を一つずつ元の場所に戻し始めた。思ったよりスムーズに片付けが進み、3分が経つ頃には机はほとんど整理されていた。

「できたじゃないか。どう?」
「うん、思ったより簡単だったかも……。」
セシルは少し驚きながらも満足そうに微笑んだ。

その夜、セシルは自分一人で「出したらしまう」を実践してみることにした。
お気に入りの小説を読み終えると、いつものようにそのままベッドに放置しそうになったが、ロジェの言葉を思い出して、本棚に戻すことにした。

「なんだ、やればできるじゃない。」
自分にそう言い聞かせながら、次に散らばっていた服を片付ける。洗濯物は洗濯籠へ、畳むべきものはクローゼットにしまった。

「出したらしまう」を意識すると、部屋全体が驚くほどスッキリしていくのがわかった。

数日後、セシルの母が部屋を訪れた。
「あら、セシル……部屋が綺麗になったわね!どうしたの?」
「ロジェに言われて、ちょっとね。」
「彼、本当に素晴らしい人ね。あなたにいい影響を与えてくれるなんて。」

母の言葉に、セシルは照れくさそうに微笑んだ。

しかし、特訓はそう簡単には終わらない。ある日、セシルは忙しさにかまけて、再び本や服を散らかしてしまった。

その日の夜、ロジェが突然やってきた。
「セシル、部屋を見せてもらってもいい?」
「えっ……ちょっと待って!まだ片付けてなくて……!」

ロジェは構わず部屋に足を踏み入れると、散らばったものたちを一瞥して微笑んだ。
「大丈夫。失敗することもあるさ。でもね、ここからどうするかが大事なんだ。」

彼はセシルの手を取って、一緒に片付けを始めた。
「この本はどこに戻す?」
「本棚の2段目……。」
「この服は?」
「洗濯籠に……。」

ロジェの穏やかなリードで、セシルの部屋はあっという間に綺麗になった。

「出したらしまうって、簡単そうで難しいね。」
セシルがそう言うと、ロジェは笑いながら答えた。
「でも、続けていれば習慣になるよ。毎日少しずつね。」

その言葉に勇気をもらい、セシルは次の日からさらに意識を高めていった。

数週間後、セシルの部屋はすっかり綺麗な状態が保たれるようになった。ロジェが来るたびに、「よく頑張ったね」と褒めてくれるのが、セシルにとって何よりの励みだった。

「出したらしまう」――そのシンプルなルールが、セシルの生活だけでなく心にも変化をもたらしていた。

彼女の心には、少しずつ自信と新しい自分への期待が芽生えていたのだった。

(終わり)






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