上 下
218 / 231

211

しおりを挟む
寂しさの徒然に、わたしは久しぶりに一人でホテルのバーに行った。

達也さんが怒ってSkypeを切った。

だから、この関係に終止符を打つためにわたしは誰かの物になりたかった。

初めては、達也さんとと決めていたんだけど

もうそんなものはどうでもよくなった。

彼が他の人と過ごす時間をリアルであれ、バーチャルであれ、

私以上に取るのなら、鏡の法則でわたしも達也さんと過ごす時間よりも

多くとってやる。

お馬鹿な女の安楽な考えだった。

重厚感のある都内の一流ホテルのラウンジバーには、イケメンのバーテンさんがいる。

彼は、このホテルの勤めて結構長い。

わたしの保険の既契約者で、達也さんと知り合う前は、

朝方に彼の同僚たちと食事に行ったり、ボーリングに行ったり、

彼のアパートでみんなで麻雀したり、海に行ったり結構プライベートな時間を楽しむ事も多かった。

「お、めずしいね」

彼はにこやかに美しいおじぎをしてくれる。

カウンターに勝手に座る。

「いらっしゃいませ」

「うふふ、おひさ」

「お飲み物は何になさいますか」

「いつもの」

バンタインの30年物。

シングルグラスに一杯だけ飲ませてもらえる。

琥珀色に揺らめく液体を香りを楽しみながら唇で味わう。

焼けるような感覚に、

「ああ」

と、ため息を漏らす。

唇を舐めてみた。

「からい」

「ロックや水割りじゃなくていつもストレートだね」

「だって、もったいないもの」

そのまま黙ってうつむいた。

ぽとりぽとりと涙が零れる。

涙と酷のあるウイスキーを一気に飲み干すと

五臓六腑にしみわたる。

「あれてますねー」

「ねっ」

ああ、これ以上ここにいるのは無理。

誰も知らない店にすればよかった。

ちょっと背の高いカウンターチェアに座っている元気もない。

わたしはさっさと会計を済ませて外に出た。

タクシーの運転手さんが、ミラー越しにちらちら見つめ

「こんなきれいな人初めて見た」

と、おせじを言ってくれる。

だけど私の心はちっとも喜ばない。

明日なら、誰でもいいのかも知れない。

優しくしてくれるなら我慢できるのかも知れない。

でも、今日は今日は彼じゃなきゃダメなの。

Skypeを切った後、そのままパソコンを達也さんが落としてしまったから

わたしはこの不安を

この憤りを

誰にもぶつけることができずに悶々としている

火山砕屑物の流れで出口を失った活火山のように……。

「誰でもいいからだいてよ」

そう言えたらどんなに楽だろう。

この得体のしれない嫉妬の塊をわたしは亡きものにしたかった……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

お嬢様、お仕置の時間です。

moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。 両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。 私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。 私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。 両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。 新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。 私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。 海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。 しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。 海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。 しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。

ポエヂア・ヂ・マランドロ 風の中の篝火

桜のはなびら
現代文学
 マランドロはジェントルマンである!  サンバといえば、華やかな羽飾りのついたビキニのような露出度の高い衣装の女性ダンサーのイメージが一般的だろう。  サンバには男性のダンサーもいる。  男性ダンサーの中でも、パナマハットを粋に被り、白いスーツとシューズでキメた伊達男スタイルのダンサーを『マランドロ』と言う。  サンバチーム『ソール・エ・エストレーラ』には、三人のマランドロがいた。  マランドロのフィロソフィーを体現すべく、ダンスだけでなく、マランドロのイズムをその身に宿して日常を送る三人は、一人の少年と出会う。  少年が抱えているもの。  放課後子供教室を運営する女性の過去。  暗躍する裏社会の住人。  マランドロたちは、マランドラージェンを駆使して艱難辛苦に立ち向かう。  その時、彼らは何を得て何を失うのか。 ※表紙はaiで作成しました。

捨てられた侯爵夫人の二度目の人生は皇帝の末の娘でした。

クロユキ
恋愛
「俺と離婚して欲しい、君の妹が俺の子を身籠った」 パルリス侯爵家に嫁いだソフィア・ルモア伯爵令嬢は結婚生活一年目でソフィアの夫、アレック・パルリス侯爵に離婚を告げられた。結婚をして一度も寝床を共にした事がないソフィアは白いまま離婚を言われた。 夫の良き妻として尽くして来たと思っていたソフィアは悲しみのあまり自害をする事になる…… 誤字、脱字があります。不定期ですがよろしくお願いします。

女子に虐められる僕

大衆娯楽
主人公が女子校生にいじめられて堕ちていく話です。恥辱、強制女装、女性からのいじめなど好きな方どうぞ

『山陰クライシス!202X年、出雲国独立~2024リライト版~』 【こども食堂応援企画参加作品】

のーの
現代文学
RBFCの「のーの」です。 この度、年末に向けての地元ボランティアの「こども食堂応援企画」に当作品で参加させていただきこととなりました! まあ、「鳥取出身」の「総理大臣」が誕生したこともあり、「プチタイムリーなネタ」です(笑)。 投稿インセンティブは「こども食堂」に寄付しますので、「こども食堂応援企画」に賛同いただける読者様は「エール」で応援いただけると嬉しいです! 当作の「原案」、「チャプター」は「赤井翼」先生によるものです。 ストーリーは。「島根県」が日本国中央政権から、「生産性の低い過疎の県」扱いを受け、国会議員一人当たりの有権者数等で議員定数変更で県からの独自の国会議員枠は削られ、蔑(ないがし)ろにされます。 じり貧の状況で「島根県」が選んだのは「議員定数の維持してもらえないなら、「出雲国」として日本から「独立」するという宣言でした。 「人口比シェア0.5%の島根県にいったい何ができるんだ?」と鼻で笑う中央政府に対し、島根県が反旗を挙げる。「神無月」に島根県が中央政府に突き付けた作戦とは? 「九州、四国を巻き込んだ日本からの独立計画」を阻止しようとする中央政府の非合法作戦に、出雲の国に残った八百万の神の鉄槌が下される。 69万4千人の島根県民と八百万柱の神々が出雲国を独立させるまでの物語です。 まあ、大げさに言うなら、「大阪独立」をテーマに映画化された「プリンセス・トヨトミ」や「さらば愛しの大統領」の「島根県版」です(笑)。 ゆるーくお読みいただければ幸いです。 それでは「面白かった」と思ってくださった読者さんで「こども食堂応援」に賛同下さる方からの「エール」も心待ちにしていまーす! よろしくお願いしまーす! °˖☆◝(⁰▿⁰)◜☆˖°

バスでのオムツ体験

rtokpr
エッセイ・ノンフィクション
バスで女の子がオムツを履く話です

雲は遠くて

おとぐろ・いっぺい
現代文学
愛と 自由と 音楽と 共に 成長していく、現代と 同時 進行の、若者たちの 物語。 <詩と散文と音楽の広場> http://otoguroippei.g1.xrea.com/ <my youtube> https://www.youtube.com/channel/UCOyJXTmB1z6CdzuawVE9oOg

体育教師に目を付けられ、理不尽な体罰を受ける女の子

恩知らずなわんこ
現代文学
入学したばかりの女の子が体育の先生から理不尽な体罰をされてしまうお話です。

処理中です...