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モノトーンの冬の街はどんどん彩を加えられ、

黄色や青や赤やピンクの生命があふれ出す。

こんな季節は、リアルなら二人で散歩するだけでも楽しいのだろうに。

北海道と東京。

新型感染症のメッカみたいな二つの地に住む達也とみるくは、

毎日のように

「早く会いたいね」

と、口惜しそうに会話してインターネットゲームとSkypeで仕方なく

時を紡いでいた。

ああ、もう死んでもいいと思うほどの幸せの絶頂から、

達也さんの女関係で周りからも連日のように

「だから~さっさと別れた方がほんと良いって」

と、言われてしまうようなジェットコースター生活を送る。

達也さんの口癖の

「まったりしろよ」

と、何度言われても

怒り絶頂に達し、吠える、泣く、わめく、

しまいにはスカイプのヘッドホンマイクをぶん投げる。

リアルだったら、どんな温和な男のひとでもソバにはいられないような状態になる。

例えば、昨日の早朝、

達也さんとみるくは日課の災厄と言うコンテンツに行ったのだが、

最後にクリアーできなかった。

しかも、みるくは連日失敗していて、

とてもいらいらして、ゲームをやめようかと思うくらい

無力感にさいなまれていた。

終わった後、みるくの家で少しイチャイチャしたのだが、

疲れ果てたのか、

「ゼルメアに行かないか」

「金策もしないとな」

という達也さんの誘いに乗る事が出来ず、ログアウトした。

昼過ぎ、小説も書き終えてログインすると、

達也さんが独りで迷宮にいた。

早速話しかけ、Skypeをしようとしたがマイクがうまくつながらない。

「再起動して来る」

と、達也さん。

「じゃあ、みるくも再起動して来るね」

と、二人は再起動をした。

みるくが戻ってくると、達也さんはあんすずさんとパーティーをくんでいた。

「すぐ終わる、40分くらい待ってて」

はー?

Skypeもつながないまま。

10分くらい前の話だよ。

再起動して来るって。

どうしてこうなるの。

しかも、あんすずさんとブラさんと達也さんは朝から何時間も遊んでたのに。

大体、一番腹が立つのは

「飯食ってくる。あとでな」

と約束をして、履行された事は一度も無かった。

あんすずさんが本命なのか。

もう涙があふれ出す。

すてるならさっさとすてろ。

拾いに来るな。

怒りがこみあげてくる。

「誰もわたしは捨てない」

善人ぶって、全員、蛇の生殺状態だった。

ああ、去年とおんなじ。

何時まで繰り返すの。

去年の司さんとのツイッター戦争、

おととしのういんりーちゃんとのいざこざが

走馬灯のように頭の中を駆け巡る。

「達也さんなんて大嫌い」

「もう、いやだーー」

「遊べない、Skype出来ないなら再起動して来るって言わなきゃいいのに」

いつもいつも、毎日毎日、何時間もまたされて、

他の女と遊んだ抜け殻みたいになって

「疲れてる」

「咳が酷いの知ってるだろう」

「具合が悪いんだ」

具合が悪いのなら可哀想だからと我慢していると、

舌の根も乾かぬうちに他の女と遊んでる。

はーーー。

ここまで馬鹿にされて、なんで私この人とくっついてるんだろう……。

信頼とは信頼に値する材料があるからするというものではなく、

まず先に信頼してしまうことなのです。

信頼されると人はそれにこたえようとするものです。

頭の中ではわかっているんだけどな。

あんすずさんと楽しんだコンテンツ。

ゼルメアや魔塔、すごろくにみるくはこの二年間で達也さんと

一度くらいしかないのがうらやましくて仕方がない。

そして、また今回も選ばれなかった。

あんすずさんを達也さんは選んだと言う事が

死にたいくらい辛いことだった。

おまけに、これみようがしにあんすずさんは達也さんとの画像を冒険日誌に張っている。

それを見たフレさんたちが、画像を送ってくる。

小さな親切大きなおせっかい。

ありがとうございます。

次の日の早朝、アップデートされたストーリーを

二人でクリアーしようと達也さんから誘いの電話があった。

なんだかんだ言って、大切にされてる。

愛されてると気を取り直し挑んだのだが、

何という仕様。

せっかく二人でパーティー組んでいたのに、

解除しないと次に進めない。

ぐすん。
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