注意欠陥多動性障害(ADHD)の日常

小説

心のリフレッシュ

心のリフレッシュ

翌朝、彩香は目覚めると、いつもよりもすっきりとした気分だった。昨夜は久しぶりにぐっすり眠れたようで、体の重さも軽く感じられた。彼女は、前日の自分とはまるで別人のような気分で、目覚めの一杯の水を飲みながら、昨日のことを振り返った。

夕方、母が勧めてくれた水泳に行ったのが大きかったのかもしれない。母は、「運動してみたらどう？」と何気なく提案してくれただけだったが、彩香はその言葉に少し救われた気がしていた。

体育館のプールに到着すると、彩香は少し緊張していた。ここ最近、体を動かすことを避けていたので、泳ぐのは久しぶりだった。しかし、水に入ると、その感覚が思いのほか心地よく、彩香の気持ちは少しずつほぐれていった。

プールの水はひんやりとしていて、初めはその冷たさに戸惑ったが、体が慣れると、逆にその涼しさが心地よく感じられた。彩香は、最初はゆっくりと泳ぎ始め、徐々にペースを上げていった。水の中では、外の世界の雑音がすべて消え去り、自分の呼吸と心拍音だけが耳に響いていた。

そのリズムに身を任せると、彩香の頭の中は次第にクリアになっていった。日常の不安や悩みが、まるで水に溶け込んでいくように消えていった。何度も何度も往復するうちに、彼女の心は少しずつ軽くなっていった。

「これ、いいかも…」

泳ぎ終えた後、彩香はプールサイドに腰を下ろし、濡れた髪を絞りながらそう呟いた。体は心地よく疲れていて、その疲労感がむしろ心を落ち着けてくれている気がした。自分がまだ、何かを成し遂げられる力を持っていると感じられたのは、久しぶりだった。

家に帰ると、彩香は夕食を軽く済ませ、早めにベッドに入った。布団の中で目を閉じると、水泳のリズムがまだ体に残っているようで、その感覚が彼女を優しく包み込んでいた。そして、すぐに深い眠りに落ちた。

今朝、彩香はそのリフレッシュ感を持続させながら、鏡に映る自分の顔を見つめた。そこには、少しだけだが、前向きな自分が映っていた。やはり、少しでも体を動かすことが、心にも良い影響を与えるのだと実感した。

学校に行く準備をしながら、彩香は昨日と同じことを繰り返さないよう、自分に少しだけ期待していた。何かを忘れないように、気をつけながら支度を整える。そして、通学カードと小銭入れがバッグの中にちゃんと入っていることを確認した。

「今日は、少しだけ頑張れそうな気がする…」

彩香はそう思いながら、家を出た。まだすべてが順調に行くわけではないかもしれないが、少しでも前向きに生きていける気がしていた。

学校に着くと、友達がいつものように明るく話しかけてきた。彩香は、昨日とは違って、その会話に少しずつ参加してみることにした。プールでリフレッシュした心と体が、少しずつ彼女を前に進ませていた。

授業が始まると、彩香は集中力を保とうと努力した。まだ完全ではないが、昨日のような疲れや焦燥感は感じなかった。少しずつ、前に進むことができるかもしれない。彩香はそう自分に言い聞かせながら、一歩ずつ、日常を取り戻していくのだと心に決めた。

この一日が、昨日よりも少しだけ良いものであれば、それでいい。彩香はその思いを胸に、今日もまた、少しずつ前に進んでいくのだった。