感謝の気持ち

春秋花壇

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インクの盾:現実と物語の狭間で

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インクの盾:現実と物語の狭間で

篠はいつものように、古い木製の机に向かっていた。中世ヨーロッパを舞台にした小説の執筆に没頭し、物語の世界に心を預けていた。彼女が描いているのは、一人の元王妃が民の健康を願い、生姜の栽培に挑戦する話だった。フランク王国の冷涼な気候では生姜は育たず、王妃は苦心しながらも、ついには交易の力を借りて解決策を見つけるというストーリーだ。

「まったくもってもう何とかしてくださいよ」と、篠は半べそをかいて神に懇願する。

シーンの一つひとつを緻密に描写し、史実や文化を調べては、フィクションに組み込む作業に夢中になっていた。シルクロードの交易ルートや、地中海貿易の細かな歴史を参照しながら、絵空事ではないリアリティを持たせるために孤軍奮闘していた。

そんなある日、彼女が東京のスーパーで安価に買える生姜に心から感謝しようとしていた時、異様な光景が目に入った。家族の一人、アスペルガーでサイコパス気質の彼が、何かぶつぶつと呟いている。

「ガラスの瓶を割って、ギザギザになった部分でぐちゃぐちゃのドロドロになるほど相手を殴って血まみれにして……」

篠はゾッとした。その言葉の残酷さと、話す相手の冷酷な表情に背筋が凍りついた。言葉が鋭利な刃物のように心に刺さり、悪寒が走る。

「もうええっちゃ」と、篠は心の中でつぶやいた。

「網状にして……」と、相手はさらに詳細に伝えようとする。篠の頭の中には、まるで映画のワンシーンのように残酷なイメージが次々と浮かび上がる。だが、それを振り払おうとする度に、相手の言葉は耳をつんざくように響いた。

「もう、やめろーーー!」篠は叫びそうになるのをぐっと堪えたが、胸の内は叫び声で溢れかえっていた。

相手は嬉しそうによだれまで垂らしてしゃべっていた。篠は、そんな姿に対する不快感と恐怖に押しつぶされそうになる。

「もう、あと一部屋ほしい。こんな顔してこんな気持ちで読者に何を伝えろっていうのよ!」

篠は思わず声に出してしまった。彼女は、現実の厳しさと、想像の中で生きる物語の間で葛藤し続けていた。背中がもぞもぞする。現実の暗い影が、彼女の創作の喜びを曇らせていた。

彼女の夢は、いつかお金を稼げる小説家になって、あと一部屋増やし、寝て居る家族を跨がなくてもトイレに行けるアパートに住むことだった。今の住まいでは、狭く、圧迫感が彼女を苛む。それでも篠は夢を追い続けた。

篠は深呼吸をし、ペンを握り直した。彼女が描く元王妃は、決して諦めない強さを持っていた。篠もまた、その強さを持って書き続けるのだ。現実の闇を払いのけ、物語の光を見つけるために。

「世の中思うようにはならないよね」と篠は思いながらも、ペンを止めることはなかった。彼女は再び執筆に没頭し、物語の中で安らぎを見つけようとした。現実の苦しみを癒すために、彼女は物語を紡ぎ続ける。

そして、いつか夢が叶う日を信じて。


***

書き終わって

「はうー」

と一息ついていたら

モズの動画を見続けている彼が嬉しそうに立ち上がって

小学生が嬉々としてジェスチャー付きで得意げにしゃべるように

一つ一つのシーンを事細かにしゃべっている。

海馬が半端ない彼の話は、鮮明にまるで絵コンテでも書いているように

得意げに伝えてくる。

「まあね、そういう映画があるということは

同じようなことに喜びを得る人が家族だけではないという証」

と、別な意味で感心してる。

ああ、異世界転移したい瞬間でした。





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