感謝の気持ち

春秋花壇

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想いの帰る場所

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想いの帰る場所

俺の名前は「想」。30年前、俺は貧困母子家庭で育った。毎日を生き抜くのが精一杯だった俺たちを支えてくれたのは、一人のおばさんだった。彼女の名前は「澄江さん」。澄江さんは隣の家に住んでいて、母親が仕事で遅くなることが多かった俺に、いつも温かいご飯を食べさせてくれた。

澄江さんの家は、俺にとってもう一つの家のような存在だった。小さなキッチンで作られる香ばしい味噌汁の匂いや、揚げたてのコロッケの味は、今でも忘れられない。彼女はただの隣人ではなく、俺にとっては家族だった。

その澄江さんが、今は独居老人になっているという噂を聞いた。自分の生活がようやく安定してきた今、恩返しの気持ちが沸き上がってきた。俺は決心した。「澄江さんと同居しよう」と。

ある晴れた秋の日、俺は澄江さんの家を訪れた。小さな木の門をくぐり、懐かしい庭を見渡す。庭には色とりどりの花が咲き乱れていて、澄江さんの優しい手入れが行き届いていることがわかる。

玄関のベルを鳴らすと、しばらくしてから澄江さんが出てきた。少し痩せたように見えたが、その笑顔は昔と変わらなかった。

「想くん?本当に想くんなの?」

「はい、澄江さん。お久しぶりです。」

彼女は驚いた表情で俺を迎え入れてくれた。リビングに通されると、昔と同じように清潔で温かみのある空間が広がっていた。

「澄江さん、実はお話しがあって来ました。」

「どうしたの、想くん?」

俺は澄江さんに今の状況を説明し、同居の提案をした。彼女は一瞬驚いたようだったが、すぐに微笑んで頷いた。

「ありがとう、想くん。でも、私のためにそんなに負担をかけたくないのよ。」

「負担なんて、そんなことありません。澄江さんがいてくれたおかげで、俺はここまで来ることができました。今度は俺が恩返しする番です。」

澄江さんは涙を浮かべながら頷き、俺の手を握り締めた。その温かさに、俺もまた感謝の気持ちで胸がいっぱいになった。

それから、俺たちの新しい生活が始まった。澄江さんの家に俺の荷物を運び込み、二人で暮らし始めた。澄江さんは朝早く起きて庭の手入れをし、俺は仕事に出かける前に一緒に朝食を取った。

ある日、仕事から帰ると、澄江さんがキッチンで夕食を作っていた。懐かしい香りが家中に漂っていた。

「想くん、今日はあなたの好きなカレーを作ったのよ。」

俺はその言葉に胸が熱くなった。澄江さんの作るカレーは、俺の子供時代の思い出そのものだった。

「ありがとうございます、澄江さん。でも、無理しないでくださいね。」

「大丈夫よ。想くんのために料理をするのが、私の楽しみなんだから。」

その夜、俺たちは一緒にカレーを食べながら昔話に花を咲かせた。澄江さんの話す言葉の一つ一つに、温かさと優しさが詰まっていた。

時間が経つにつれて、俺たちの絆はますます深まっていった。澄江さんは庭で育てた野菜を使って美味しい料理を作り、俺は週末には一緒に散歩に出かけたり、映画を見たりして過ごした。

ある日、澄江さんが俺に言った。

「想くん、あなたがいてくれるおかげで、毎日が本当に楽しいわ。ありがとう。」

「こちらこそ、澄江さん。感謝しているのは俺の方です。」

そんなある日、澄江さんが急に体調を崩して倒れた。病院に運び込まれたが、医者からは「長くないかもしれない」と告げられた。俺は澄江さんの手を握りしめ、涙を流しながら祈った。

「澄江さん、お願いだから、まだ俺と一緒にいてください。」

澄江さんは微笑みながら、弱々しくも優しく俺の手を握り返した。

「想くん、ありがとう。あなたのおかげで、私は幸せだったわ。これからも感謝の気持ちを忘れずに、生きていってね。」

その言葉を最後に、澄江さんは静かに息を引き取った。俺は涙が止まらなかったが、澄江さんの温かさと優しさに包まれながら、彼女の最後の言葉を胸に刻んだ。

澄江さんが亡くなった後、俺は彼女の家を守り続けることに決めた。庭の手入れをし、澄江さんが大切にしていた花々を育て、彼女の思い出を胸に生きていく。

澄江さんの言葉に従い、感謝の心を忘れずに過ごす日々。彼女の温かさと優しさが、俺の心の中でいつまでも輝き続けている。

澄江さん、あなたに出会えて本当に良かった。ありがとう。あなたの愛と優しさを胸に、これからも生きていきます。

これが俺、想の物語。感謝の心を持ち続け、恩返しの旅を続ける物語。澄江さんの思い出と共に、俺は今日も前を向いて歩いていく。








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