54 / 56
冬至と柚子湯
しおりを挟む
「なんか暗くない?」
「真っ暗だね、なんだろう」
辺りは黒い雲に覆われて、陰湿な空気が漂っている。
今日は冬至。12月22日。
一日のうちで、一番日照時間の短い日。
でも、日食でもあるまいにこの暗さは……。
明日からは、日照時間も少しずつ伸びる。
ここのところ、金縛りもなく過ごしていたが、
闇の勢力がなくなったわけではないので、
いつまた、襲われるかわからなかった。
そんなものに襲われた日には、
特殊な能力をまったくもたないこの家族は、
どう対処するのだろう。
そんなことを考えながら、
皆既日食のようなこの状態を眺めていた。
僕はもふもふのジュリアーノ。マルチーズなの。
かつてママに飼われていた。
今はお空のお星様。
ママを守るためにそばにいる。
古代では、冬至を境に日が伸びるので、
太陽神の復活とも考えられていた。
この真っ暗な中、何事もなければいいのだが……。
しばらくして、未来お嬢ちゃんの泣き声が聞こえる。
しかも、その声はいつもより激しいものだった。
「どうした?」
ママは慌てて、とんで行った。
「あらー」
見ると、未来おじょうちゃんは血まみれ。
床にもぼたぼたと血の滴り。
「どうしたの、なにがあったの」
未来お嬢ちゃんはびっくりして、声も出ない様子。
ママは、優しく抱きしめている。
頭を撫でている。
少し落ち着いたようなので、濡れたタオルを取りに行く。
顔もかなり血だらけ。
「本当にどうしたの」
「にいにが、にいにが」
「え」
「にいにがどうかしたの?」
「にいにが、にいにが……」
にいにを見に行くと、眠っている。
「にいに、眠ってるけど」
「さっき起きてきて、いきなり蹴ったの」
「ええええええええ」
とりあえず、お嬢ちゃんの顔や手についている血を拭いた。
洋服もかなり、血まみれなので着替えさせる。
「どうしたのかしらね。眠ってるけど」
ママは心配そうに、未来お嬢ちゃんの顔を覗き込んだ。
鼻血のようだ。
どこかが切れたり怪我したりはしていなかった。
「蹴って、すぐに自分のベッドに行ったの」
「何かしたの?」
「ううん、いきなり来て、何も言わないで蹴ったの」
少年はというか、青年は、以前にも夢遊病のようになって、
5階から落ちたことがある。
でも、その時には、自分の処方されている睡眠薬と、
ママの置き忘れたお酒を一緒に飲んだからなのだが……。
何時間かして、青年が起きてきたので、
「未来をどうして蹴ったの?」
と、聞くときょとんとして
「僕、そんなことしてないよ」
「でも、未来はお兄ちゃんがいきなり起きてきて、
何も言わないで蹴ったって」
青年はしばらく静かに聞いていたが、
「僕は朝からとてもいらいらしていて、
だから頓服を飲んだんだけど、
それでも収まらないから、
睡眠薬を飲んで寝たんだけど」
「記憶がないのかな」
「未来は嘘をつくような子じゃないから」
「そうだね」
「謝って来るヨ」
青年は未来お嬢ちゃんのところに行き、
記憶にないけどごめんなさいをした。
未来お嬢ちゃんも病気だとわかると快く許した。
真っ暗だった辺りも少しずつ明るくなり、
普段通りの日中の明るさに戻った。
「日食だったのかしら、不思議ね」
·.̩₊̣.̩✧*̣̩˚̣̣⁺̣‧.₊̣̇.‧⁺̣˚̣̣*̣̩⋆·̩̩.̩̥·̩̩⋆*̣̩˚̣̣⁺̣‧.₊̣̇.‧⁺̣˚̣̣*̣̩✧·.̩₊̣.̩‧
「今日は、冬至だから、パンプキンパイを作りましょうか」
「はーい」
「じゃあ、僕はカボチャのシチューを作るよ」
「あ、ありがとう」
「じゃあ、わたしはパンプキンプリンを作る」
未来お嬢ちゃんは、お菓子作りがとても大好き。
台所で、わいわい言いながら調理を始めた。
夕方にはすっかり出来上がって、準備ができた。
「釣り場に行って、温泉に柚子を入れて、柚子湯を楽しみましょうか」
「わーい」
3人は、スキップしながら楽しそうに釣り場に向かった。
3人が柚子湯を楽しんでいると、
ちらちらと粉雪が降ってきた。
お風呂の中なので、寒くはなかった。
茶色の地面がみるみる真っ白になって、
とても素敵な冬景色になっていく。
風情のあるその光景に、子供たちも圧倒されている。
柚子の香りがほのかに漂っていい感じ。
「きれいね」
「すてきねー」
吐く息も白く、温泉の湯気と雪が心の中まで癒してくれる。
「ずーと入っていられそう」
「でも、おなかすいたー」
「ママ、福島の温泉を思い出すね」
「そうね、楽しかったよね」
「うん、つららでちゃんばらした」
「うんうん」
思い出話に花が咲く。
優しい気持ちになった少年は、
「未来、今日はほんとにごめんよ」
「間違いと基地外はどこにでもいる」
「こらー」
お湯をかけあってる。
仲のいい兄弟でよかった。
ほかほかになって、家路に向かう家族。
どんな時も助け合って、成長しあえるといいね。
変化し続けられるといいね。
心から祈ってます。
読んでくださってありがとうございます。
「真っ暗だね、なんだろう」
辺りは黒い雲に覆われて、陰湿な空気が漂っている。
今日は冬至。12月22日。
一日のうちで、一番日照時間の短い日。
でも、日食でもあるまいにこの暗さは……。
明日からは、日照時間も少しずつ伸びる。
ここのところ、金縛りもなく過ごしていたが、
闇の勢力がなくなったわけではないので、
いつまた、襲われるかわからなかった。
そんなものに襲われた日には、
特殊な能力をまったくもたないこの家族は、
どう対処するのだろう。
そんなことを考えながら、
皆既日食のようなこの状態を眺めていた。
僕はもふもふのジュリアーノ。マルチーズなの。
かつてママに飼われていた。
今はお空のお星様。
ママを守るためにそばにいる。
古代では、冬至を境に日が伸びるので、
太陽神の復活とも考えられていた。
この真っ暗な中、何事もなければいいのだが……。
しばらくして、未来お嬢ちゃんの泣き声が聞こえる。
しかも、その声はいつもより激しいものだった。
「どうした?」
ママは慌てて、とんで行った。
「あらー」
見ると、未来おじょうちゃんは血まみれ。
床にもぼたぼたと血の滴り。
「どうしたの、なにがあったの」
未来お嬢ちゃんはびっくりして、声も出ない様子。
ママは、優しく抱きしめている。
頭を撫でている。
少し落ち着いたようなので、濡れたタオルを取りに行く。
顔もかなり血だらけ。
「本当にどうしたの」
「にいにが、にいにが」
「え」
「にいにがどうかしたの?」
「にいにが、にいにが……」
にいにを見に行くと、眠っている。
「にいに、眠ってるけど」
「さっき起きてきて、いきなり蹴ったの」
「ええええええええ」
とりあえず、お嬢ちゃんの顔や手についている血を拭いた。
洋服もかなり、血まみれなので着替えさせる。
「どうしたのかしらね。眠ってるけど」
ママは心配そうに、未来お嬢ちゃんの顔を覗き込んだ。
鼻血のようだ。
どこかが切れたり怪我したりはしていなかった。
「蹴って、すぐに自分のベッドに行ったの」
「何かしたの?」
「ううん、いきなり来て、何も言わないで蹴ったの」
少年はというか、青年は、以前にも夢遊病のようになって、
5階から落ちたことがある。
でも、その時には、自分の処方されている睡眠薬と、
ママの置き忘れたお酒を一緒に飲んだからなのだが……。
何時間かして、青年が起きてきたので、
「未来をどうして蹴ったの?」
と、聞くときょとんとして
「僕、そんなことしてないよ」
「でも、未来はお兄ちゃんがいきなり起きてきて、
何も言わないで蹴ったって」
青年はしばらく静かに聞いていたが、
「僕は朝からとてもいらいらしていて、
だから頓服を飲んだんだけど、
それでも収まらないから、
睡眠薬を飲んで寝たんだけど」
「記憶がないのかな」
「未来は嘘をつくような子じゃないから」
「そうだね」
「謝って来るヨ」
青年は未来お嬢ちゃんのところに行き、
記憶にないけどごめんなさいをした。
未来お嬢ちゃんも病気だとわかると快く許した。
真っ暗だった辺りも少しずつ明るくなり、
普段通りの日中の明るさに戻った。
「日食だったのかしら、不思議ね」
·.̩₊̣.̩✧*̣̩˚̣̣⁺̣‧.₊̣̇.‧⁺̣˚̣̣*̣̩⋆·̩̩.̩̥·̩̩⋆*̣̩˚̣̣⁺̣‧.₊̣̇.‧⁺̣˚̣̣*̣̩✧·.̩₊̣.̩‧
「今日は、冬至だから、パンプキンパイを作りましょうか」
「はーい」
「じゃあ、僕はカボチャのシチューを作るよ」
「あ、ありがとう」
「じゃあ、わたしはパンプキンプリンを作る」
未来お嬢ちゃんは、お菓子作りがとても大好き。
台所で、わいわい言いながら調理を始めた。
夕方にはすっかり出来上がって、準備ができた。
「釣り場に行って、温泉に柚子を入れて、柚子湯を楽しみましょうか」
「わーい」
3人は、スキップしながら楽しそうに釣り場に向かった。
3人が柚子湯を楽しんでいると、
ちらちらと粉雪が降ってきた。
お風呂の中なので、寒くはなかった。
茶色の地面がみるみる真っ白になって、
とても素敵な冬景色になっていく。
風情のあるその光景に、子供たちも圧倒されている。
柚子の香りがほのかに漂っていい感じ。
「きれいね」
「すてきねー」
吐く息も白く、温泉の湯気と雪が心の中まで癒してくれる。
「ずーと入っていられそう」
「でも、おなかすいたー」
「ママ、福島の温泉を思い出すね」
「そうね、楽しかったよね」
「うん、つららでちゃんばらした」
「うんうん」
思い出話に花が咲く。
優しい気持ちになった少年は、
「未来、今日はほんとにごめんよ」
「間違いと基地外はどこにでもいる」
「こらー」
お湯をかけあってる。
仲のいい兄弟でよかった。
ほかほかになって、家路に向かう家族。
どんな時も助け合って、成長しあえるといいね。
変化し続けられるといいね。
心から祈ってます。
読んでくださってありがとうございます。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
童貞
ひかひら
現代文学
私の初体験を綴ります。自分が見返すように作りますので、気分が悪くなった人は閲覧を遠慮していただけますようお願い申し上げます。
私のスペック:公立小学校入学後、中学受験をして中高一貫校へと入学。その後理系国公立大学へと進学し、現在は2年で在学中である。174cm、60Kg、フツメン。彼女は高校時代に1人だけ。
模範生マコ 呪われしコミュ障の血…
あおみなみ
現代文学
アツミは家族以外の人間との接触を嫌うリモートワーカー。
「大きな街」の短大を出た後、出身地でもある「中くらいの街」に戻り、
中学時代の同級生だった「ケン」と結婚し、ひとり娘「マコ」を授かる。
マコは小柄で目立たな「そう」な少女だが、健康で察しがよく、
「頼まれるとイヤと言えない性格」が幸い(災い)し、周囲からの信頼を集めていた。
しかし本質は母アツミそっくりのコミュ障である。
マコの中学校の入学式に出席したアツミは、
教室で身を縮めて悲壮な表情を浮かべるマコの様子を見て、
不登校宣言をされても受け入れようと決心するのだが…
窓を開くと
とさか
青春
17才の車椅子少女ー
『生と死の狭間で、彼女は何を思うのか。』
人間1度は訪れる道。
海辺の家から、
今の想いを手紙に書きます。
※小説家になろう、カクヨムと同時投稿しています。
☆イラスト(大空めとろ様)
○ブログ→ https://ozorametoronoblog.com/
○YouTube→ https://www.youtube.com/channel/UC6-9Cjmsy3wv04Iha0VkSWg
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる