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僕はもふもふのジュリアーノ 神様からのプレゼント
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「ママ、うれしそうだね。どうしたの」
「赤ちゃんができてるんだって、今度は死なないで育ってくれると嬉しいな」
そばにいる保健婦さんは、とても心配そう。
せっかく、自助グループ通いが安定して、ママのために
仲間がお金を出し合って、清瀬市に仲間が集まれるアパートを借りてくれたんだ。
ミーティングまでの間に、お酒を呑んでしまわないように。
保健婦さんはね、妊娠することによって、
また精神が不安定になるんじゃないかって、
そして、解離性障害の大きな症状である解離性遁走が出るんじゃないかって。
「遁走(とんそう)」とは、住み慣れた家や職場から遠く離れたところへ行き、名前や家族、職業といった重要事項を思い出せなくなることを言います。 解離性遁走は、解離性健忘のすべての病像を備えている人が、意図的に家や職場から離れて放浪します。
全く、記憶が欠落してしまうから、本人の意思は関係なくなるんだよね。
「よかったね、ママ」
「女の子だと思うわ」
とっても嬉しそう。
ママのおうちのお庭には、
バラが50本も植えてあって、
咲き乱れている。
少年は、お花が大嫌いだって、
学校の作文に書いていたよ。
ママが自分よりもお花を愛してるように感じたのかな。
オールドローズが好きだったみたい。
花心が見えないほどにくるくると渦巻く重厚な花弁の重なりは、
現代のきりりとした花型のばらとは対照的で、
愛好家の心をもっともゆさぶるみたい。
通りかかりの人が、
「お花屋さんですか」
というくらい、様々なお花が咲いていた。
家の中は、セントポーリアとランと観葉植物。
本当に好きなんだね。
20畳のベランダも大きな鉢にバラや苺やポトス、
そこでお茶を飲むと、リッチな気分になれるんだ。
少年との年の差は7歳くらいになるのかな。
ママは、毎日、少年を自転車の後ろに乗せて、
ミーティングに通ったの。
とっても、大変そう。
どうしてかって、それは少年がすでにAC、アルコール依存症家庭の
問題児行動を示していたから。
ママはね、少年のクラスのPTAの役員をしていたんだけど、
少年はね、じっと授業中、座ってられなかったみたい。
公文を長くしていたから、算数のテストも何分かで終わってしまって、
座ってられなくて、動き出しちゃうんだって。
先生から、
「公文をやめてください」
と、言われたみたい。
ママがね、リハビリしてがんばればがんばるほど、
少年は寂しくて、近所の自転車を持ってきたり、
パパさんのお財布からお金を盗んだり、
ゲームセンターに入り浸ったり、
それだけで、ママはノイローゼになりそうになっていた。
児童相談所に相談すると、
親が悪いといわれるし、どうしたらいいのかわからなかったみたい。
当然のように、ミーティングで話す話は、お酒のことではなく、少年のことになる。
そうすると、仲間は、家族に見放されたり、捨てられたりした人が多かったから、
ミーティーングに子供を連れてくるなとか
ここは、お酒の問題を話すところだとか
いろいろ、言われて、お互いに共通点、分かち合いではなくて、
違い探しが始まったんだ。
それでも、ママは、アダルトチルドレン・オブ・アルコホーリックスに少年を通わせながら、
自分もリハビリをしていたの。
ミーティーングで知り合う女の人たちは、
少年の話を聞いて、
施設に預けろといい始めたの。
ママが少年の共依存状態になっていて、
誰の問題かわからなくなっていたから。
ママはね、すごい勘違いをしていたの。
少年にも、転ぶ権利があるんだということがわからなかったの。
自分が変われば、少年もいつか変わってくれるって、
強く信じていたんだ。
事態はどんどんひどくなっていくのにね。
僕はね、この頃のママを見ていて、
ほんとにつらかったよ。
どんどん、不幸が押し寄せるって感じ。
何度も、神様に聞くんだ。
「もっと、楽に生きてる人もいるのに、どうしてママばかり……」
神様はね、
「逃れ道は備えてある」
っていうの。
とても、そんなふうには思えなかったんだけど。
何ヶ月かすると、ママは妊娠してるのに、
毎日、女の子の日みたいになって、
出血が止まらなくなったの。
また、赤ちゃんだめになっちゃうのかなって。
みんなで心配してた。
そして、病院にいくと、案の定、
「母体も危険だから、堕胎しましょう。前置胎盤です」
って。
本当に、親子とも死んじゃう病気なんだ。
ママはね、毎日祈ってた。
「どうか、この子の命を助けてください」
って。
ある日、ママはふと思い出して、自分の芸者時代に
ずっと、優しくしてくれていた産婦人科の医者のことを思い出したの。
そして、命の電話ではなくて、その先生のところに電話をしたの。
前置胎盤と診断された。でも、産みたいんだと。
その先生の紹介で、できる限りのことをして、
両方助ける方向に話が進んだの。
そんな状態なのに、アルコール依存症は怖い。
ママの飲酒欲求は、前にもまして、激しくなったの。
ミーティングの帰り、右に酒屋があるからと
左を通っているのに、ふと気づくと、酒屋の前に立っているとか。
ママは、アルコール治療で入院したことないから、
仲間から余計に違い探しをされて、
それでも、中には味方になってくれる人もいて、
そんな時は、ほんとにうれしそうだった。
人間て、おもしろいよね。
いろんな考えの人がいて、いろんなことを言ったりしたりする。
誰もどこでその人が救われるかなんてわからないのにね。
無事に生まれるのかな。
赤ちゃん助かるのかな。
ママは大丈夫なのかな。
それは、またのお楽しみ。
読んでくださってありがとう。
かあさま
たとえ結果は出なくても
がんばってるよ
方向性が違うのかな
気合がないのかな
いつか結果が出せるかな
かあさまの資生堂の口紅と
タバコのにおい
また嗅ぎたいな
お酒やめたら
ほめてもらえるかな
頭なでてもらえるかな
天国に行けば会えるのかな
この子を一緒に守ってください
あなたの孫なのですから
これを書いた後に、ふと思ったんだ。
ママは、母親が死んでとても悲しがってるけど。
少年はおばあちゃんが死んで、
母親は毎日、お酒を使った自殺をして、
パパさんは、ほとんど帰ってくるのは夜中だし、
寂しくて悲しくて
ひょっとしたら、一番つらいのは
ママじゃなくて、少年だったんじゃないかって。
「赤ちゃんができてるんだって、今度は死なないで育ってくれると嬉しいな」
そばにいる保健婦さんは、とても心配そう。
せっかく、自助グループ通いが安定して、ママのために
仲間がお金を出し合って、清瀬市に仲間が集まれるアパートを借りてくれたんだ。
ミーティングまでの間に、お酒を呑んでしまわないように。
保健婦さんはね、妊娠することによって、
また精神が不安定になるんじゃないかって、
そして、解離性障害の大きな症状である解離性遁走が出るんじゃないかって。
「遁走(とんそう)」とは、住み慣れた家や職場から遠く離れたところへ行き、名前や家族、職業といった重要事項を思い出せなくなることを言います。 解離性遁走は、解離性健忘のすべての病像を備えている人が、意図的に家や職場から離れて放浪します。
全く、記憶が欠落してしまうから、本人の意思は関係なくなるんだよね。
「よかったね、ママ」
「女の子だと思うわ」
とっても嬉しそう。
ママのおうちのお庭には、
バラが50本も植えてあって、
咲き乱れている。
少年は、お花が大嫌いだって、
学校の作文に書いていたよ。
ママが自分よりもお花を愛してるように感じたのかな。
オールドローズが好きだったみたい。
花心が見えないほどにくるくると渦巻く重厚な花弁の重なりは、
現代のきりりとした花型のばらとは対照的で、
愛好家の心をもっともゆさぶるみたい。
通りかかりの人が、
「お花屋さんですか」
というくらい、様々なお花が咲いていた。
家の中は、セントポーリアとランと観葉植物。
本当に好きなんだね。
20畳のベランダも大きな鉢にバラや苺やポトス、
そこでお茶を飲むと、リッチな気分になれるんだ。
少年との年の差は7歳くらいになるのかな。
ママは、毎日、少年を自転車の後ろに乗せて、
ミーティングに通ったの。
とっても、大変そう。
どうしてかって、それは少年がすでにAC、アルコール依存症家庭の
問題児行動を示していたから。
ママはね、少年のクラスのPTAの役員をしていたんだけど、
少年はね、じっと授業中、座ってられなかったみたい。
公文を長くしていたから、算数のテストも何分かで終わってしまって、
座ってられなくて、動き出しちゃうんだって。
先生から、
「公文をやめてください」
と、言われたみたい。
ママがね、リハビリしてがんばればがんばるほど、
少年は寂しくて、近所の自転車を持ってきたり、
パパさんのお財布からお金を盗んだり、
ゲームセンターに入り浸ったり、
それだけで、ママはノイローゼになりそうになっていた。
児童相談所に相談すると、
親が悪いといわれるし、どうしたらいいのかわからなかったみたい。
当然のように、ミーティングで話す話は、お酒のことではなく、少年のことになる。
そうすると、仲間は、家族に見放されたり、捨てられたりした人が多かったから、
ミーティーングに子供を連れてくるなとか
ここは、お酒の問題を話すところだとか
いろいろ、言われて、お互いに共通点、分かち合いではなくて、
違い探しが始まったんだ。
それでも、ママは、アダルトチルドレン・オブ・アルコホーリックスに少年を通わせながら、
自分もリハビリをしていたの。
ミーティーングで知り合う女の人たちは、
少年の話を聞いて、
施設に預けろといい始めたの。
ママが少年の共依存状態になっていて、
誰の問題かわからなくなっていたから。
ママはね、すごい勘違いをしていたの。
少年にも、転ぶ権利があるんだということがわからなかったの。
自分が変われば、少年もいつか変わってくれるって、
強く信じていたんだ。
事態はどんどんひどくなっていくのにね。
僕はね、この頃のママを見ていて、
ほんとにつらかったよ。
どんどん、不幸が押し寄せるって感じ。
何度も、神様に聞くんだ。
「もっと、楽に生きてる人もいるのに、どうしてママばかり……」
神様はね、
「逃れ道は備えてある」
っていうの。
とても、そんなふうには思えなかったんだけど。
何ヶ月かすると、ママは妊娠してるのに、
毎日、女の子の日みたいになって、
出血が止まらなくなったの。
また、赤ちゃんだめになっちゃうのかなって。
みんなで心配してた。
そして、病院にいくと、案の定、
「母体も危険だから、堕胎しましょう。前置胎盤です」
って。
本当に、親子とも死んじゃう病気なんだ。
ママはね、毎日祈ってた。
「どうか、この子の命を助けてください」
って。
ある日、ママはふと思い出して、自分の芸者時代に
ずっと、優しくしてくれていた産婦人科の医者のことを思い出したの。
そして、命の電話ではなくて、その先生のところに電話をしたの。
前置胎盤と診断された。でも、産みたいんだと。
その先生の紹介で、できる限りのことをして、
両方助ける方向に話が進んだの。
そんな状態なのに、アルコール依存症は怖い。
ママの飲酒欲求は、前にもまして、激しくなったの。
ミーティングの帰り、右に酒屋があるからと
左を通っているのに、ふと気づくと、酒屋の前に立っているとか。
ママは、アルコール治療で入院したことないから、
仲間から余計に違い探しをされて、
それでも、中には味方になってくれる人もいて、
そんな時は、ほんとにうれしそうだった。
人間て、おもしろいよね。
いろんな考えの人がいて、いろんなことを言ったりしたりする。
誰もどこでその人が救われるかなんてわからないのにね。
無事に生まれるのかな。
赤ちゃん助かるのかな。
ママは大丈夫なのかな。
それは、またのお楽しみ。
読んでくださってありがとう。
かあさま
たとえ結果は出なくても
がんばってるよ
方向性が違うのかな
気合がないのかな
いつか結果が出せるかな
かあさまの資生堂の口紅と
タバコのにおい
また嗅ぎたいな
お酒やめたら
ほめてもらえるかな
頭なでてもらえるかな
天国に行けば会えるのかな
この子を一緒に守ってください
あなたの孫なのですから
これを書いた後に、ふと思ったんだ。
ママは、母親が死んでとても悲しがってるけど。
少年はおばあちゃんが死んで、
母親は毎日、お酒を使った自殺をして、
パパさんは、ほとんど帰ってくるのは夜中だし、
寂しくて悲しくて
ひょっとしたら、一番つらいのは
ママじゃなくて、少年だったんじゃないかって。
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