かあさんのつぶやき

春秋花壇

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終わらない春

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終わらない春

春の陽射しが柔らかく差し込む中、富子は台所で朝ごはんを作っていた。小さなアパートの6畳間は、窓からの光で暖かく、心地よい香りが漂っている。だが、そんな平和な時間は、47歳の息子・和俊が寝ている限り、完全には満たされなかった。

和俊は、かつては明るく活発な青年だった。しかし、いつの間にか仕事を辞め、家に引きこもり、朝から晩まで布団の中にいる。富子は毎朝、和俊が起きてくるのを待つが、彼はいつも同じように寝ている。「もう少し寝かせてくれ」と言いながら、彼は布団の中で不満を言う。

「和俊、そろそろ起きて朝ごはんを食べないと。あなたの好きな卵焼きを作ったのよ」と富子は優しく声をかけた。すると、和俊は小さくうなりながら、「また朝ごはんか。もう飽きたよ」と返事をする。富子はため息をつくが、息子のことを思うと、どうしても無理に起こすことができなかった。

1. 日常の繰り返し
日が暮れかける頃、和俊はようやく布団から出てくる。彼は寝ぼけ眼をこすりながら、台所に向かい、富子が用意した食事を見ては、「何これ、また同じ料理?」と文句を言う。富子はその言葉に傷つきながらも、心を整えて答える。「和俊、食べてくれるだけでも嬉しいの。今日はちょっとだけ工夫したんだから。」

しかし、和俊は目の前の食事を見つめ、無言で食べ始める。富子は彼が少しでも満足してくれることを願って、少しずつ自分の気持ちを抑え込んだ。

夕食を終えた後、富子はソファに腰を下ろし、ふと窓の外を眺める。街の灯りが徐々に点き始め、春の夜が訪れようとしていた。そんな中、和俊は再び部屋に戻り、布団にくるまってしまった。富子は静かに食器を片付けながら、心の中に不安を抱えていた。

2. 変わらぬ現実
数日後、富子は友人の美智子と電話で話をしていた。「最近、和俊がずっと寝てばかりで……心配なのよ」と彼女は言った。「そんな時は、何か楽しいことを一緒にするのがいいかもしれないわ。例えば、外に散歩に行くとか、映画を観るとか」と美智子がアドバイスする。

富子はその言葉に考え込む。「でも、和俊は外に出たがらないし……何を言っても文句を言うだけだわ。」美智子は優しく笑った。「それでも、試してみる価値はあると思うわ。」

その翌日、富子は和俊に提案した。「今日はちょっと散歩に行きませんか?近くの公園で桜が咲いているの。」すると、和俊は無表情で返事をした。「面倒だよ。そんなことしても意味がない。」

富子の心は沈んだが、どうにかして息子を外に出したい一心で、再度挑戦した。「そうかもしれないけれど、少しでも外の空気を吸ったほうがいいと思う。私も一緒に行くから。」和俊はしばらく黙っていたが、最終的には「しょうがないな」と言い、重い足取りで立ち上がった。

3. 小さな変化
公園に着くと、桜の花が見事に咲き誇っていた。富子はその美しさに思わず微笑む。しかし、和俊は少し遠巻きに見ているだけで、全く楽しむ様子がなかった。富子は心の中で、彼が何かを感じてくれればと思った。

「ほら、きれいな花ね。あの桜の香りを嗅いでみて。」富子が言うと、和俊はため息をつきながら近づいた。彼は花の匂いを嗅ぎ、一瞬だけ目が輝いたように見えた。しかし、その後すぐに顔をしかめ、「結局、何も変わらないじゃないか」とつぶやいた。

富子は胸が締め付けられる思いだったが、少なくともこの小さな瞬間に彼が何かを感じ取ったことが嬉しかった。彼女は静かに彼の隣に立ち、言葉をかけた。「少しずつ、前に進んでいければいいと思うの。」

4. 新たな一歩
その後、富子は和俊にさまざまな提案を続けた。週末には映画を観に行く、時には料理を一緒に作る。和俊は最初は不満を言ったが、少しずつ彼女の努力に心を開くようになった。

ある日、和俊はふと、「最近、少しだけ外に出るのが楽しいと思うようになったかも」と言った。その言葉に富子は目を輝かせ、「本当?それは素晴らしいわ!」と喜んだ。

春が過ぎ、夏が訪れる頃、和俊は以前よりも外に出ることが多くなった。彼は少しずつ自分の生活を見つめ直し始め、富子の支えを受けながら、希望を持って未来を考えるようになっていた。

5. 愛の力
富子は和俊の変化を見守りながら、心の中で感謝を感じていた。「愛は時に試練を伴うが、その先には必ず希望がある。」彼女はそう確信し、息子の笑顔を見つめる。

そして、彼女は自分自身も成長していることに気づいた。和俊とともに歩むことで、彼女もまた新たな人生を歩み始めていた。愛情は時に重く感じることもあったが、彼らは互いに支え合い、前に進んでいくのだった。
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みんなの感想(1件)

谷 亜里砂
2024.04.25 谷 亜里砂

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