かあさんのつぶやき

春秋花壇

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109 初挑戦

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泣き出してしまうかも

それ程心は揺れている♬

大昔のうろ覚えの歌を口ずさみ

何とかこの不安定なシーソーゲームから抜け出そうとしている

メンタルがたがた

6月27日~29日

有明アリーナでかあさんが信じている宗教の大会が行われる

まあ、俺もなんだけど……。

でも、今回は俺は行かない。

かあさんは、パニック障害でいまだに電車バスに乗る事ができない

自宅から駅まで10分を歩くこともできないのに……。

期待と不安で自制もできないほど

かあさんの発達障害の発達特性が大暴走を始めていた

月末のつかえるお金は22000円。

そのうち、大会に行くための交通費が4800円くらい。

俺に返す金が5000円。

残りの12000円が食費と雑費。

なのに、大会に行くために新しいショーツを買った。

3枚で990円。

紙おむつを買おうか迷ったのだが、なんとお花を

12000円も買ってしまったために予算は大幅に狂った。

食費もたばこ代もないじゃん。

まったくもーーー。

宵越しの金は持たねーって金銭感覚は分かるんだけどさ。

ほんとは喉から手が出るほど、ちゃんとちゃんとしたいんだろうけどな。

どうすんだよー><


結局、残ったお金は交通費の5000円だけ。

これが、27日早朝のかあさんの全財産。

弁当も買えないじゃないかー。

祈って祈って、しなくてはいけないことを書きだす。

まずは、有明アリーナまでの交通手段。

池袋まで電車。

有楽町線に乗り換えて、豊洲へ。

豊洲には、保険会社の頃の担当職団があった。

あの頃は何にもない場所だったのに、今はどうなのかな?

そこでまた乗り換えて、ユリカモメで有明。


弁当は買えないから、おにぎりを作って持っていくことにする。

このひとさー、俺が幼稚園の時からお弁当作るの苦手なんだよな。

小学校一年生の時の運動会の弁当にカレーを作って、鍋ごと持ってきた。

海苔まきとまではいわないけど、普通、たこさんウインナーとか

卵焼き、彩にブロッコリー、プチトマト。梅干して感じ?

7歳の俺でさえ、違和感を覚えた。

そういう人だから、何を入れればこの30度超えの暑い時期に

腐らずに食せるのかがわからない。

とりあえず、ゆかりを混ぜ込み梅干しを入れて大きなおにぎりを二つ。

ガス台が壊れているから、卵焼きはパス。

凍らせて大きなペットボトルをカバンに詰め込み、シャワーを浴びて

レッツゴー。

駅まで歩けないから、自転車で向かったのだが、

下手なところに留めたら自転車置き場のお金を取られてしまう。

かといって、駅から遠くだとこの重たい荷物を持って駅にたどり着く自信がない。

何とか大きな公園に止めて、持っていかれないことを祈る。

公園には、ラジオ体操が終わり太極拳をしている人やシルバー人材センターの

仕事をしている同じくらいの年の人たちが何人もいた。

「ああ、わたしももっと動けるようになりたいな」

「月に5000円でもいいから稼げるようになって、和俊と一緒に

美味しいご飯と少しのお酒が飲めたら楽しいのにな~」

希望の優しい光で包まれていく。

今やれることを丁寧にやっていたら、

いつか願いもかなうよね。

とりあえずは、いざ有明アリーナ。

家からよりは近いけど駅まで5分。

聖書も入っているから重たいのなんのって。

肩だってやっと、傷まないで少し上がるようになったばかりだから、

怖くて仕方がない。

何とか切符を買い、いざ電車へ。

ラッシュを避け、7時29分の電車に。

サー、ここからが予兆不安との戦い。

「次は常盤台、常盤台」

ガタンゴトンガタンゴトン。

結構右に左に揺れる。

周りを見回すと、両手で吊革につかまっている人。

片手にスマホ、片手で吊革。

痴漢と間違われないように出来るだけ両手で何かをしている。

大変ねー。毎日。

リュックを抱くように前にしている。

気を使って、心を使って、お金を使って生きているのね。

人に押されて真ん中あたりに陣取った。

見ると一番高い所にあるつり革しかない。

「掴んでいられますように」

「痛くなったりしませんように」

ちょっと前まで、手が上がらず髪の毛さえ洗うのに涙していたのだから。

人間ウォッチングが一通り終わると急に


「ああ、もしも、パニックが起きたらどうしよう」

プシュー、大きな音を立ててドアが閉まる。

「息が出来なくなったらどうしよう」

「過換気の症状になったら……」

先取りの不安がどんどん大きくなり、視界までぼやけていく。

自分の事ばかり考え始めるからこうなるんだ。

注意を外に向けろ。

車窓を眺めようとするが混んでいて息が上がって、マスクが張り付いていく。

うう、息ができない。


「落ち着け、大丈夫大丈夫」

マスクを指で挟んで持ち上げ、過呼吸にならないように

鼻でゆっくりすって、お腹に空気を落とすイメージ。

こわいーーー><

「大丈夫、大丈夫」

何度も何度も言い聞かせるように

深呼吸を繰り返す。

いくつかの駅を何とかやり過ごすことができた。

「次は下板橋、下板橋ーー」

サンシャインが見えてきた。

背高のっぽの白いビルが夏の暑い日差しに照らされてきらきらと輝いて見える。

「あともう少し、あと少し」

噛みしめるように一つ一つの言葉を自分に言いきかす。


失敗したっていいんだ。

不完全な人間なんだから。

神が共にいてくださるんだから。

「次は終点池袋ー」

プッシュ―。

ドアが開いた。

小鳥のさえずりが耳に優しい。


やったー。何年ぶりだろう。

わたし、一人で電車に乗れたよー。

マンモス駅、池袋。

雑踏の人ごみに飲み込まれそうになる。

出口の改札の真向かいがJRの改札だから、

手慣れた人はまっすぐ進んでいく。

かあさんは、有楽町線だからそこからふらふらしながら

おぼつかない足取りで歩く。

改札から改札へ、その場所を過ぎると人っ子一人いない閑散とした空間があった。

全体の1日平均の利用者数は約264万人のターミナル駅。

世界一のマンモス駅、新宿ほどではないにしても大都会東京って感じ。


ちゃんと調べたのに、なぜか有楽町線も終点の新木場まで行くと勘違いしていたかあさんは、

豊洲を出たところで気が付き、下りて戻ってきた。


さあー、最後の電車、ユリカモメ。

切符を有明まで買ったところで、同じ宗教の人らしい人に声をかける。

ご親切にも

「有明テニスの森まで切符買ってね。その方が安いし近い」

と、教えてくださった。

切符をいったん返却し、買い替える。

そして、目的地の流れのような人混みへ。


「ねー、神様、ありがとう。わたしこれたよ。ひとりで電車に乗れたよ」

神が高らかに賛美されますように。

この感動がみんなに届きますように。

植栽に施された椿の実がいくつも艶やかに微笑んでいる。

うーん、神の創造物は美しい。

こうして褥瘡だらけの半分ねてばかりいる69歳の初夏を神の山に登るのです。
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