かあさんのつぶやき

20 奇妙な部屋の風景

　「まさに緊急事態なんだね」

今日の訪問看護は、そんな言葉で始まった。

「オイッス!」

俺の名前は、沼田 和俊（ぬまた かずとし）43歳。

無職である。

重度の統合失調症で、毎週、病院に通っている。

母、小宮 富子(こみや　とみこ)66歳。

母は、父と離婚した後、別な戸籍になり、

旧姓に戻った。

母もまた重度の精神障害者である。

二人は、子供の頃から幻覚、幻聴に悩まされていた。

( ´•̥ו̥` )

国内の感染確認 新たに355人 300人以上は5月2日以来
2020年7月9日 23時07分

東京都 新たに240人以上感染確認 きのう上回り最多 新型感染症
2020年7月10日 14時02分

かあさん、66年生きていて初めての光景だとか。

それほど、異常事態なのだろう。

感染力が高いとはいえ、かつて家の中までマスクをするようなことは一度もなかった。

そして、ダムが決壊したように増え始めた患者数は……。

しかも、65歳以上ではなく、4.50代が多いとか。

これでは、一番の稼ぎ頭を失ってしまう。

なんとかなるといいね。

かあさんは、記憶をなくしてお金をたくさん使ってしまったから、

一日1000円で暮らしている。

食費、消耗品、衣類、交際費、全部ひっくるめたお金だ。

かわいそうに、ラジオ体操のあとにまたみんなでコーヒーも飲めなくなっちゃったね。

しょぼーーんとしている。

尿パットが結構値段が張るようで、

このお金は後で出るらしいんだけど、

レシートか領収書をもらうのは忘れてしまうから、

返還金はない。

でーー、今日もまたまたお好み焼きである。

チョッパーで残り野菜を細かくして、

フライパンで焼いている。

おたふくソースもお金がなくて買えないらしく、

醤油で食べる。

でも、今日はちょっとリッチで鰹節もあおさもある。

鰹節がお好み焼きの上で鮮やかに踊る。

あおさが彩りと香りを添える。

キャベツは一玉68円でゲット。

人参も入って、プチプチと赤い色がかわいい。

こんがり狐色に焼きあがって、口に入れるとふわとろ。

「電気もガスも水道も止められたことがあったよね」

「夜中、ペットボトルを持って公園に水を汲みに行ったよね」

「あの頃から比べたら、夢のようだよね」

感謝できる今日一が一番幸せだという。

最近は、同じ話を何度もする。

今日はアルファポリスのポイントをもらえる日。

いつか、ハリー・ポッターのイギリスの作家J・K・ローリングのように

小説でご飯を食べるようになりたいと毎日がんばっている。

そんな風に、毎日努力している母さんを見ると、

「俺もがんばらないとな」

って思うんだ。

窓辺にバラやアジサイ、ミントのガーランドが揺れる。

今年は、ラベンダーのドライフラワーは作らなかったんだね。

ライム色のポトスが明るさを添えて折鶴ランはシュートを思い思いに延ばしている。

ひざが痛いと這っているかあさん、少しでも健康でいられますように。

かあさんのニコニコ仏さんみたいな笑顔、大好きだよ。