さくらこものがたり

春秋花壇

文字の大きさ
上 下
88 / 122

白鳥入芦花

しおりを挟む
 雨音は夢の中まで梅雨籠。

七夕も近いというのにどこの家の軒先にも笹一つない。

新型の感染症はこんなところにまで影響を及ぼして、

風情や旬、彩を楽しむゆとりさえない。

日曜日、夕刊の配達がない夕方をゆっくり楽しもうと思っていたのに、

情緒不安定になってお風呂で水にもぐって泣き叫んでいたさくらこ。

「いやだーー」

いつものようにはだかんぼうでお布団の冒険をしていたのだが、

やっぱり寂しくてどうしようもない。

「心が凍えちゃうよー」

騒がしい雨音のようにいつまでも鳴り止むことを知らない。

お風呂場であれだけ泣いたのに、嗚咽がこみ上げてくる。

「うわーーん」

布団をかぶって、泣きたいだけ泣くことにした。

バスタオルを口に挟んで声が漏れないように。

「ううう」

ないものねだりするんじゃない。

与えられているものに感謝するんだ。

どう言い聞かせても、魂が納得しない。

愛が足りない。

空っぽなのだ。

笑顔同封さえできなかった。

あんなに毎日、笑顔歯磨き、感謝行トイレ掃除、道行く人に笑顔で挨拶。

毎日毎日、積み重ねてきたのに、

もう、そんな上っ面ではごまかせないほど、

飢え乾いていた。

「いやだー」

「さみしいんだよー」

「心がしもやけになっちゃうよー」

「あがぎれになっちゃうよー」

「こおりついちゃうよー」

鼻水と涙の洪水。

ラベンダーとミントの心地よい香りの中で、

「泣くだけないたら、また笑えるようになる」

鏡は先に笑わない。

いつしか、つかの間の安らぎにいざなわれていく。

そっと、自分の頭をなでながら……。

やさしく、両手で自分をハグしながら……。

どのくらい眠ったのだろう。

起きたら、5時過ぎていた。

泣くのってきっとすごいエネルギー使うんだね。

スマホをマナーモードから通常モードに切り替えて、

見るとLINEがすごいことになっている。

100件近い宏君からのメッセージ。

あははW

同類なのかな。

顔を洗い、身支度を整えて二階のママたちのところに行く。

「ママ、一緒にご飯食べたい」

「うん、いいよ」

「ご飯食べ終わったら、さくらこに少しだけ時間ください」

「少しじゃなくてもいっぱいでもいいよ」

「?」

ママの白雪姫コンプレックスを気にして、

できるだけさくらこはママと接触するのを控えてきた。

……。

ピザーラでピザを注文した。

ご飯はパパも一緒に食べるんだ。

さくらこは、山盛りのサラダを作った。

エビマヨのよくばりクォーター。

グルメクォーター。

さくら子の作ったサラダは、

アボガド、ミニトマト、コーン、レタス、チキン。

パプリカ赤、黄色、オレンジ、自分で育てたイタリアンパセリ。

買ってきたゴボウサラダとポテトサラダも添えた。

フラーツは、さくらんぼと種なしぶどう。

飲み物はコーラ。

「ピザには絶対コーラだよね」

「うんうん」

「だな」

「ビールあるよ」

「もらおうかな」

「はーい」

「スーパードライ」

「うほ、ちょっと贅沢だね」

うわー、楽しい家族団らん。

新しいパパが来て2年以上たつのに数えるほどしか一緒に食事をしたことがない。

だめだめ、ないものねだりしないの。

さくらこは自分に言い聞かせる。

さくらこ13歳。

ママ31歳。

パパ27歳。

新しい家族模様はゆるーく織り成されていく。

「あ、さくらこちゃん、プレゼントがあるんだ」

「え?」

ピンクの小さな花柄の手提げ袋に、いろんな包みが入っている。

「あけてもいい?」

「ああ、いいよ」

なんと、いろんな種類のマスク。

「毎日、新聞配達、お疲れ様」

「これって、一つのお店で買ったの?」

「いや、いろんなところで見てよさそうなものを選んだんだ」

「うわー、ありがとう」

レースでできた淡い藤色のマスクや

迷彩柄のマスク。黒のマスク。さくらこの大好きなサーモンピンクの無地のマスク。

いろいろ入っている。

「すごいね、いろんな服が着れそう」

「喜んでもらえて嬉しいよ」

「あ、そうだ」

さくらこは、自分で育てたバジルとパセリをビザにトッピングした。

「お好きな方はどうぞ」

「彩がきれいだね」

「新鮮な緑が赤や茶色のピザによく会うね」

食べ終わると、テーブルを片付けて、

手を重ねて、じゃんけんしてパシーンとたたくゲームをした。

痛いけど、たのしい。

指相撲も腕相撲もすごーくすごーく嬉しかった。

これぞさくらこがほしかったLOVE。

「ママ、少し時間いい?」

朝刊の配達のために、いつまでも起きている時間はない。

「はーい」

パパはひとりで二階に引き上げていく。

「ママをおかりしまーす」

「はいよー」

さくらこはママと自分のお部屋に行くと、布団を敷いて、

「添い寝してほしいの」

と、素直におねだりした。

「あら」

ママは、ちょっとびっくりしている。

「ママ、カンガルーになってもいい?」

「?」

「ママの心臓の音、聞きたいの」

「うんうん」

ママの左胸の上に耳をあてると

どっくん、どっくん。

生きている音がする。

涙が溢れ出す。

それは、昼間の乾いた心の涙ではなかった。

満ち溢れた愛への喜びと感謝の涙。

「ママ、あのね」

「うん」

「なんかよくわからないんだけど、すごく寂しくなっちゃったの」

「そうかー」

「うん」

「きっと、ずっと我慢してたんだね」

「う・ん」

「雪が解けるように感情が流れ出したんだね」

「う・ん」

「とってもいいことなんだよ、きっと」

「そうなの?」

「いっぱい泣いたら、心から笑えるようになるってカウンセラーの先生が言ってた」

「へー」

ママは、さくらこの頭を優しくなでながら話してる。

ママもしっかり白雪姫コンプレックスの治療をしている。

子は決して母親の呪縛から抜け出せない……。

さくらこも素直になって、自分の心の奥の感情と向き合う準備ができた。

どんなに寂しくても、どんなにネグレクトされても

何もなかったことにしてきていた凍りついた感情は今、暖かな明るい春を向かえ

ゆっくりと解けていく。

小鳥のさえずりとさわやかな風と共に。

「ママ、ぎゅーして」

「はいはい、あまえんぼうさん」

ママもとっても嬉しそう。

「あのね、バランスボールの上に座っているみたいで

自分に自信が持てないの」

ママもパパもさくらこをしっかり見て、頷いてくれている。

「すごく不安定なの」

ちゃんと、聞いてくれている。

「こつこつ積み上げても、礎が腐っていて、

いつか基礎から崩れてしまいそうで怖いの」

かまってもらっている。

いらない子じゃない。

ネグレクトされていない。

かまってもらっている。

Look at Me!!

ママとさくらこの愛着障害のプログラムは悠久の時を越えて今始まる。

꒰* ॢꈍ◡ꈍ ॢ꒱.*˚‧


Tuesday, July 7
The whole world is lying in the power of the wicked one.​—1 John 5:19.

Satan wants us to become like him​—a rebel who ignores Jehovah’s standards and is motivated by selfishness. He surrounds us with people who are already corrupted by him and hopes that they will “spoil” or “corrupt” the way we think and act. (1 Cor. 15:33; ftn.) Satan also tries to infect our heart by getting us to trust human wisdom rather than Jehovah’s thinking. (Col. 2:8) Consider just one idea promoted by Satan​—that getting rich should be a primary goal in life. Those who think this way might become wealthy, or they might not. Either way, they are in danger. Why? Because they may become so focused on making money that they will sacrifice their health, their family relationships, and even their friendship with God just to reach their goal. (1 Tim. 6:10) We can be grateful that our wise heavenly Father helps us to have a balanced view of money.​—Eccl. 7:12; Luke 12:15. w19.01 15 ¶6; 17 ¶9


流れない水はいつか腐っていく。

心が腐敗させられないように変化しないとね。

成長しないとね。

流れないとね。

さくらこの白鳥入芦花は、

たとえ同じように真っ白に見えても白鳥は一人ぼっちだと気づいたという今日一日でした。

夏の大三角のベガ、デネブ、アルタイル。

夏銀河の白鳥は寂しくなさそうだね。

夏の夜空の銀河には、オルフェウスとエウリュディケ。

織姫と彦星の二つの愛の物語がある。

天の川に輝く北十字の白鳥と愛が満ち溢れますように戯れてみるのはどうだろう。

さあ、今日は七夕、素敵なあなたに出会えますように。

読んでくださってありがとうございます。

7月7日

泥鰌鍋

落し文

水中花

夏 椿

泡 盛

梅雨籠



泉 

夏銀河

炎 天

灯涼し

草むしり

祭太鼓

麦 湯

竹醉日







しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

若妻の穴を堪能する夫の話

かめのこたろう
現代文学
内容は題名の通りです。

同僚くすぐりマッサージ

セナ
大衆娯楽
これは自分の実体験です

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

お嬢様、お仕置の時間です。

moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。 両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。 私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。 私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。 両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。 新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。 私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。 海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。 しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。 海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。 しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。

処理中です...