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陣取り
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「きゃー」
「こないでー」
「いやだー」
みんな鬱憤がたまってるのか、何時になく大きな声を出している。
公園は、砂交じりの土で滑りやすい。
普通の靴で走ると、ざざーーーと滑ってしまうこともあった。
「またさき」
バレエや相撲でも練習していないと、過度に股を大きく開くのは後々まで痛い。
みんな滑らないようにと、心では注意しているのだが、
追いかけられるとそんなことは忘れてしまっていた。
おまけに今日は朝まで、雨が降っていて、
いつになくしめやかな空気が漂う。
何週間か会わない間に、やけに大人っぽくなった子もいる。
さすが、中学1年生。
変化する年齢なのだろう。
相変わらず、女子達は集まると、こいばなにはながさく。
さくらこは、自分が初恋真っ只中なのにも気づかずに、
みんなの話を聞いていた。
「最近の子は、ボールとかものがないと遊べない」
と、言われみんなで相談して物を使わずに遊んでみた。
15時ちょっと前、
もうすぐ夕刊を配りに行く時間。
散々走り回った後、
これが最後とばかりに、敵の陣に向かって
突進した。
その途端、
「あ」
「ああああああ」
なんと転んでしまった。
スライダー。
ざざーーーー。
「いやだー、このままいくとぶつかる」
視野は極端に狭くなり、敵の陣地である大きな岩が迫り来る。
手でぶつかるのを防いでいるのに、押さえきれず
「がーーーん」
思い切りおでこをぶつけた。
火花が散る
なんてことがほんとにあるのね。
まるでコミック雑誌のように
頭の上を星が舞う。
そのまま気が遠くなる。
翔太くんがしっかり、抱きかかえてくれて、
「おい、大丈夫か」
と、心配そうにさくらこの顔を覗きこむ。
頭が痛い。
おでこが、い・た・い。
本当は大泣きしたいのに、ぐっと我慢する。
涙は勝手に目からあふれ出てぽろぽろと大粒の雫になり、
鼻水までて来た。
周りに人だかりが出来、口々に
「大丈夫?」
「おばさんよんでこようか」
と、心配してくれている。
いつもなら、この公園にはたくさんのアジサイが植えてあり、
この時期なら、つぼみがつくのを観察できたりしていたのに、
今年は、桜の咲くちょっと前にばっさりと切られ、
荒れ野のような状態になっていた。
花見月がそよぐ風で花びらを散らし、
羽衣ジャスミンの甘い香りが漂っている。
小鳥は囀り、はとが舞い、
子猫たちが何匹も遊んでいる。
別名「お城公園」
入り口のわきに茶色の建物があり、
その建物からにょきっと二連のコンクリート製滑り台が突き出ている。
その周囲が茶色のレンガで出来ていて、
お城のような形をしていた。
線路の向こうの公園に比べて、
少し狭いし暗いけど、ここはここの安らかさがあった。
「ありがとう。大丈夫。とりあえず、夕刊配らなきゃだから、
帰るね。また遊んでね」
「ばいばい、またね~♪」
みんなとお別れして、公園の目の前にある自分のアパートに帰った。
手を洗い、うがいをして、鏡を覗くとおでこがあかくなっている。
「とりあえず、夕刊配らなきゃ」
鏡に向かって、無理やり作り笑いをすると、
涙でくしゃくしゃになった自分がいた。
ママの洗顔フォームを借りて、
丁寧に顔を洗う。
「さあー、戦場だ」
顔をどうもうまく洗えない。
床にぼたぼたと水がたれる。
雑巾でしっかり拭いて、慌てて新聞店に向かう。
自転車のかごが朝の雨で濡れているため、
雑巾でしっかり拭いてビニールに入れた新聞を載せた。
奥から、奥さんが出てきて、さくらこの顔を見るなり、
「どうしたの」
と、おでこに手を伸ばした。
「いっつ!」
「あかくなって、大きなたんこぶ」
奥さんはびっくりしている。
小さなヒエピタを冷蔵庫から出して張ってくれた。
「配り終わったら、まっすぐ帰ってきて、
少し休みなさいよ」
「はーい」
昨日、二階を借りる話が決まってあんなに幸せの絶頂にいたのに、
人の生活はほんとにびっくりするくらい色々ある。
自転車をこぐたびに、おでこに響いてべそをかきそうになる。
いくら、さくらこががんばりやさんだからといって、
神経がないわけじゃない。
痛いものは痛いのだ。
途中で何度も止まって、おでこをなでてて、
「よしよし、がんばれ自分」
と、励ました。
帰りに赤いなでしこを買った。
遊歩道に去年植えたなでしこが随分伸びていたから
同じように育つといいなと思った。
みんな、咲いた花を見るのは好きだけど、
咲くまでの過程に興味がない。
花が咲くには強い根があってこそ。
少し腐葉土も混ぜてみようかな。
本当は、淡いピンクがすきなんだけど、
深紅も悪くはない。
「ただいまー」
新聞店に戻ると、奥さんが飛んできて、
おでこを見ている。
「すごい大きなたんこぶ」
「え?」
おでこに触るとかなり膨れ上がっていた。
おでこを通り越して、何故か両目のうわまぶたまで
青いあざになっていた。
おいわさんみたい><
「病院行かなくて平気かしら」
「少し休めば平気だと思います」
「吐いたりしたら教えてね」
「はーい」
「あ、それからね。お部屋のことだけど、契約無事に終わったから」
「ありがとうございます」
「上か下か、ちゃんと話し合って決まったら教えて」
「はい」
さくらこは、とりあえずなくなった娘さんのお部屋に行った。
倒れこむようにベッドに横になった。
あまーいミントの香りがする。
「あ、そうだ。さっき買ったアイス」
台所に戻ると、奥さんにアイスの箱を渡した。
「みなさんでどうぞ」
「あら、おいしそう」
「はい、さくらこちゃんのぶん」
「ありがとう」
箱から出すと、奥さんはさくらこに一本渡した。
早く食べて寝たかったので、急いで空けたら、
棒から取れてしまった。
仕方なく、ビニールで軽く抑えながら食べたのだが、
半分以上食べ終わったとき、
頭がキーンとする。
たんこぶの痛みと、キーンの痛み。
叫びたくなるほど一瞬激痛だった。
「ひーーー」
「あははは」
「そんなに急いで食べなくても」
「そう・ね」
何をやってもうまくいかない。
まぁ、こんな日もあるよね。
長官にキスと 朝刊に記す
「こないでー」
「いやだー」
みんな鬱憤がたまってるのか、何時になく大きな声を出している。
公園は、砂交じりの土で滑りやすい。
普通の靴で走ると、ざざーーーと滑ってしまうこともあった。
「またさき」
バレエや相撲でも練習していないと、過度に股を大きく開くのは後々まで痛い。
みんな滑らないようにと、心では注意しているのだが、
追いかけられるとそんなことは忘れてしまっていた。
おまけに今日は朝まで、雨が降っていて、
いつになくしめやかな空気が漂う。
何週間か会わない間に、やけに大人っぽくなった子もいる。
さすが、中学1年生。
変化する年齢なのだろう。
相変わらず、女子達は集まると、こいばなにはながさく。
さくらこは、自分が初恋真っ只中なのにも気づかずに、
みんなの話を聞いていた。
「最近の子は、ボールとかものがないと遊べない」
と、言われみんなで相談して物を使わずに遊んでみた。
15時ちょっと前、
もうすぐ夕刊を配りに行く時間。
散々走り回った後、
これが最後とばかりに、敵の陣に向かって
突進した。
その途端、
「あ」
「ああああああ」
なんと転んでしまった。
スライダー。
ざざーーーー。
「いやだー、このままいくとぶつかる」
視野は極端に狭くなり、敵の陣地である大きな岩が迫り来る。
手でぶつかるのを防いでいるのに、押さえきれず
「がーーーん」
思い切りおでこをぶつけた。
火花が散る
なんてことがほんとにあるのね。
まるでコミック雑誌のように
頭の上を星が舞う。
そのまま気が遠くなる。
翔太くんがしっかり、抱きかかえてくれて、
「おい、大丈夫か」
と、心配そうにさくらこの顔を覗きこむ。
頭が痛い。
おでこが、い・た・い。
本当は大泣きしたいのに、ぐっと我慢する。
涙は勝手に目からあふれ出てぽろぽろと大粒の雫になり、
鼻水までて来た。
周りに人だかりが出来、口々に
「大丈夫?」
「おばさんよんでこようか」
と、心配してくれている。
いつもなら、この公園にはたくさんのアジサイが植えてあり、
この時期なら、つぼみがつくのを観察できたりしていたのに、
今年は、桜の咲くちょっと前にばっさりと切られ、
荒れ野のような状態になっていた。
花見月がそよぐ風で花びらを散らし、
羽衣ジャスミンの甘い香りが漂っている。
小鳥は囀り、はとが舞い、
子猫たちが何匹も遊んでいる。
別名「お城公園」
入り口のわきに茶色の建物があり、
その建物からにょきっと二連のコンクリート製滑り台が突き出ている。
その周囲が茶色のレンガで出来ていて、
お城のような形をしていた。
線路の向こうの公園に比べて、
少し狭いし暗いけど、ここはここの安らかさがあった。
「ありがとう。大丈夫。とりあえず、夕刊配らなきゃだから、
帰るね。また遊んでね」
「ばいばい、またね~♪」
みんなとお別れして、公園の目の前にある自分のアパートに帰った。
手を洗い、うがいをして、鏡を覗くとおでこがあかくなっている。
「とりあえず、夕刊配らなきゃ」
鏡に向かって、無理やり作り笑いをすると、
涙でくしゃくしゃになった自分がいた。
ママの洗顔フォームを借りて、
丁寧に顔を洗う。
「さあー、戦場だ」
顔をどうもうまく洗えない。
床にぼたぼたと水がたれる。
雑巾でしっかり拭いて、慌てて新聞店に向かう。
自転車のかごが朝の雨で濡れているため、
雑巾でしっかり拭いてビニールに入れた新聞を載せた。
奥から、奥さんが出てきて、さくらこの顔を見るなり、
「どうしたの」
と、おでこに手を伸ばした。
「いっつ!」
「あかくなって、大きなたんこぶ」
奥さんはびっくりしている。
小さなヒエピタを冷蔵庫から出して張ってくれた。
「配り終わったら、まっすぐ帰ってきて、
少し休みなさいよ」
「はーい」
昨日、二階を借りる話が決まってあんなに幸せの絶頂にいたのに、
人の生活はほんとにびっくりするくらい色々ある。
自転車をこぐたびに、おでこに響いてべそをかきそうになる。
いくら、さくらこががんばりやさんだからといって、
神経がないわけじゃない。
痛いものは痛いのだ。
途中で何度も止まって、おでこをなでてて、
「よしよし、がんばれ自分」
と、励ました。
帰りに赤いなでしこを買った。
遊歩道に去年植えたなでしこが随分伸びていたから
同じように育つといいなと思った。
みんな、咲いた花を見るのは好きだけど、
咲くまでの過程に興味がない。
花が咲くには強い根があってこそ。
少し腐葉土も混ぜてみようかな。
本当は、淡いピンクがすきなんだけど、
深紅も悪くはない。
「ただいまー」
新聞店に戻ると、奥さんが飛んできて、
おでこを見ている。
「すごい大きなたんこぶ」
「え?」
おでこに触るとかなり膨れ上がっていた。
おでこを通り越して、何故か両目のうわまぶたまで
青いあざになっていた。
おいわさんみたい><
「病院行かなくて平気かしら」
「少し休めば平気だと思います」
「吐いたりしたら教えてね」
「はーい」
「あ、それからね。お部屋のことだけど、契約無事に終わったから」
「ありがとうございます」
「上か下か、ちゃんと話し合って決まったら教えて」
「はい」
さくらこは、とりあえずなくなった娘さんのお部屋に行った。
倒れこむようにベッドに横になった。
あまーいミントの香りがする。
「あ、そうだ。さっき買ったアイス」
台所に戻ると、奥さんにアイスの箱を渡した。
「みなさんでどうぞ」
「あら、おいしそう」
「はい、さくらこちゃんのぶん」
「ありがとう」
箱から出すと、奥さんはさくらこに一本渡した。
早く食べて寝たかったので、急いで空けたら、
棒から取れてしまった。
仕方なく、ビニールで軽く抑えながら食べたのだが、
半分以上食べ終わったとき、
頭がキーンとする。
たんこぶの痛みと、キーンの痛み。
叫びたくなるほど一瞬激痛だった。
「ひーーー」
「あははは」
「そんなに急いで食べなくても」
「そう・ね」
何をやってもうまくいかない。
まぁ、こんな日もあるよね。
長官にキスと 朝刊に記す
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