春秋花壇

夏のホラー

夏のホラー

真夏の夜、都市から少し離れた田舎の小さな村で、毎年恒例の「納涼祭り」が開催された。古くから続くこの祭りは、村人たちが集まり、夜を通して踊り、歌い、暑さを忘れるためのものだ。しかし、今年の祭りには、奇妙な噂が村中に広がっていた。

「夜中に祭りを見に行くと、絶対に帰れないんだってさ…」誰もがそう囁いていた。

祭りが行われるのは、村の外れにある山の中腹。そこには古い神社があり、祭りはその神社の境内で行われる。神社へ続く道は、昼間でも薄暗く、夜になると完全に闇に包まれる。村人たちはそれでも毎年のように祭りに参加していたが、最近の失踪事件が続いたことで、不気味な雰囲気が漂っていた。

その夜、都会から帰省してきた大学生のタカシは、幼馴染のアヤと共に祭りへ行くことにした。噂を聞いて怖がるアヤを、タカシは「そんなのただの迷信だよ」と笑い飛ばした。

「まあ、せっかくだし、一緒に行こうよ。お祭りなんて久しぶりだし、絶対に楽しいって！」

アヤも最初は不安だったが、タカシの無邪気な笑顔に押されて、一緒に行くことにした。二人は手をつなぎながら、夜の闇の中、神社へ続く道を歩いていった。

森の中腹に差し掛かると、周囲の温度が急に下がり、肌に寒気が走った。蝉の声は次第に弱まり、代わりに風が木々を揺らす音だけが響き渡る。

「なんか、ちょっと寒いね…」アヤが不安そうに言った。

「そうだな…でも、もうすぐ神社だよ」とタカシは返事をしたが、その声には少しの緊張が含まれていた。

やがて二人は、神社の鳥居をくぐり抜けた。そこには数人の村人たちが既に集まっており、祭りの準備が進められていた。境内には提灯の明かりがともり、太鼓の音が静かに鳴り響いていた。

しかし、どこか様子がおかしい。例年に比べて人が少なく、祭りの空気がどこか重苦しかった。タカシもアヤもその違和感を感じつつも、せっかく来たのだからと祭りを楽しむことにした。

やがて、太鼓の音が次第に大きくなり、祭りのクライマックスが近づいた。境内に集まった村人たちは一斉に踊り始め、その様子は異様に熱気を帯びていた。タカシとアヤもその輪に加わり、踊りに身を委ねた。

しかし、踊っているうちに、アヤは気づいた。村人たちの顔が次第に歪んで見えることに。その目は虚ろで、まるで意識がないかのようだった。

「タカシ…みんな、変だよ…」アヤがタカシに訴えかけたが、彼もまた、まるで別人のような表情をしていた。タカシの目も虚ろで、アヤの言葉が届いていないようだった。

恐怖に駆られたアヤは、何とか祭りの輪から抜け出そうとしたが、足がまるで地面に縛り付けられたかのように動かない。周囲の村人たちが次第にアヤに近づいてくる。彼らの顔はすでに人間のそれとはかけ離れており、まるで何かに取り憑かれたかのようだった。

アヤは必死に叫んだが、その声は夜の闇にかき消された。祭りの太鼓の音はますます大きくなり、アヤの意識は次第に遠のいていった。

その後、アヤの姿を見た者はいなかった。村では、また一人、納涼祭りの夜に消えた者が増えたという噂が広がるばかりだった。そして、来年の夏もまた、村人たちは何事もなかったかのように「納涼祭り」を開催するのだろう。

しかし、そこには、毎年少しずつ増える失踪者たちの無言の怨念が漂っていることを、誰もが感じているはずだった。