春秋花壇

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立秋の約束

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「立秋の約束」

立秋の朝、空はまだ夏の名残を残していた。陽光が斜めに差し込む中、緑の葉がほんのりと黄ばんでいる。小さな町の古びた書店の前に立つのは、若い女性、沙織だった。彼女はいつも通りのチェック柄のワンピースに、秋の気配を感じさせる茶色のショールを羽織っていた。

沙織はその日が待ち遠しかった。子どものころから通い続けているこの書店で、立秋のたびに特別な本が並ぶのが恒例だった。書店の主人であるおじいさんは、毎年この時期になると、彼自身が選び抜いた文学の名作や、美しい詩集を一堂に並べるのだ。その中でも、沙織のお気に入りは「秋の詩集」だった。

書店の扉を開けると、古い紙の香りがふわりと広がる。おじいさんが微笑みながら迎えてくれた。「おはよう、沙織さん。今年もまた立秋がやってきましたね。」

「おはようございます、おじいさん。今年の詩集、楽しみにしていました。」

おじいさんは頷き、棚の奥から一冊の本を取り出して差し出した。「これが今年の詩集です。あなたにぴったりな内容だと思いますよ。」

沙織は本を受け取り、その表紙に描かれた風景に見入った。それは秋の夕暮れ時、朽ちた橋と静かな川が描かれている。ページをめくると、そこには美しい詩が並んでいた。

彼女が本を読み進めるうちに、かつての記憶が蘇ってきた。子どものころ、書店の奥でおじいさんと一緒に詩を朗読したことや、秋の風に吹かれて書店から帰ったことを思い出した。詩の一節が、彼女の心に深く響いた。

ふと、沙織は本に挟まれていた古びた手紙に気づいた。それは誰かが大切にしていた手紙のようで、宛先も差出人も記されていない。彼女は興味深くその手紙を開いた。

「愛しい君へ、

秋が来るたびに、私は君を思い出します。この手紙は君に、私たちの約束が今も変わらないことを伝えるために書きました。遠くにいても、心はいつも君と共にある。立秋の日にこの手紙を見つける君へ、私たちの未来がいつか再び交わることを願って。

――」

手紙は途中で途切れていた。沙織はその言葉に胸を打たれ、思わず涙をこぼした。どこか遠い昔、誰かが大切な人への思いを込めて書いた手紙が、今ここで彼女の手に渡ってきたことに不思議な感動を覚えた。

「おじいさん、この手紙について何か知っていますか?」

おじいさんはしばらく黙ってから、ゆっくりと話し始めた。「その手紙は、ここで何年も前に出会ったカップルが残したものです。彼らは立秋の日に再会する約束をして、結局その約束を果たすことができなかったと言われています。しかし、その手紙は今も誰かに伝えられ、心に残るものになっています。」

沙織は手紙をそっと本に戻し、感謝の気持ちでいっぱいになった。「おじいさん、ありがとうございます。立秋の日がこんなに意味深いものだとは思いませんでした。」

おじいさんは優しく微笑んだ。「立秋は新しい始まりの時です。過去の思い出や約束が、今も生き続けることを忘れないでください。」

その日、沙織は書店を後にし、秋の風に吹かれながら歩いた。手には新しい詩集と、心に残る手紙の思い出を抱えて。立秋の約束が、彼女にとって特別な意味を持つことになったのだった。

この物語が気に入っていただけると幸いです。もし変更や追加があれば、お知らせください!








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