悪役令嬢ですが、何か?

春秋花壇

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革命の1票

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「革命の1票」

1792年12月11日、冷たい冬の風がパリに吹きつける中、ルイ16世は革命の法廷に立たされた。国王としての栄光と権威を剥奪され、ただの「ルイ・カペー」としての罪状認否が始まろうとしていた。廷内に響く一言一句が重たく、鋭く彼を刺す。弁護人として立ち上がったのは、宮内大臣を務めたマルゼルブと、フェミニズム運動の先駆者であるオランプ・ド・グージュだった。

ロベスピエールは、冷徹な眼差しをルイに向けながらこう考えていた。「彼は存在するだけで、革命の脅威だ。この地に自由と平等をもたらすためには、象徴を壊さねばならない」。その後、ロベスピエールはサン・ジュストとともに、裁判なしで国王を処刑すべきだと激しい演説を行った。しかし、ルイを直接的に非難するには賛同が足りず、慎重な議員たちにより審理は続けられた。

議員席に座っていた若手議員の一人、アンリ・デュポンは心の内で葛藤していた。彼はルイの処刑が必要であるかどうか、自分でも確信が持てずにいた。かつて彼が尊敬していたマルゼルブが、王の弁護を引き受ける姿を見て、さらに迷いが深まる。彼にとってマルゼルブは、フランスの良心を体現するような存在であり、その人物が自ら国王の命を救おうとしている姿に心を揺さぶられたのだ。

裁判が進む中、オランプ・ド・グージュもまた、革命が求める「自由」「平等」「博愛」の精神が、ルイの死によって損なわれる可能性を訴えた。「この国が新しい道を進むためには、血の犠牲は不要だ」と彼女は声を震わせながら主張した。しかし、彼女の言葉は議会を支配する激しい怒りと報復の空気の中で、虚しくも掻き消されていった。

時が過ぎ、1793年1月17日、運命の票決のときが訪れた。アンリは冷たい汗を滲ませながら、1票を握りしめた。361票が即時死刑に賛成、360票が反対または執行猶予を求めていた。彼が持つ1票が歴史を左右するかもしれない。息を止め、全身の力を振り絞りながら投票箱に近づく。彼の背後にはロベスピエールの冷たい視線が突き刺さり、胸を焦がすようだった。

結局、アンリは「賛成」に票を投じた。決定は覆らず、ルイ16世は即時死刑が決定され、数日後の1月21日、朝の寒空の下、断頭台に立った。群衆が見守る中で、彼は最後の言葉を呟いた。「人民よ、わたしが無実であることを許してほしい」。その声は風にかき消され、ギロチンの刃が鋭く彼の首を切り落とした。

革命がその目標とする「平等」や「自由」を実現しようとする中で、ついに国王の首が落とされた。しかし、それはまた新たな波乱をも呼び起こすこととなった。ロベスピエールとサン・ジュストは、さらに革命を進めるべく恐怖政治を強化し、反対派を次々と処刑していく。だがその道の果てに、1794年7月27日、二人は国民公会で非難され、翌日には同じギロチンの刃の下に倒れることとなる。

時が流れ、マルゼルブやオランプ・ド・グージュの名が冠されたパリの通りには、静かな秋の風が流れていた。彼らの信念と戦いが、時代を超えていまだに人々の心に残る証として、パリの街角に息づいている。そして、アンリはその通りを歩くたびに、自分が投じた「革命の1票」がどれだけの重みを持っていたかを、今でも胸に刻んでいた。







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