悪役令嬢ですが、何か?

王妃と影の疫病

王妃と影の疫病

マリー・アントワネットはヴェルサイユ宮殿の華やかな生活に包まれていた。しかし、1784年、フランス各地で疫病が流行し、その影が宮殿にも忍び寄っていた。宮廷内では、疫病の話題がささやかれるようになり、不安が広がっていた。

「王妃様、この状況をどうお考えですか？」侍女の一人が恐る恐る問いかけた。

「私たちは神のご加護のもとにあります。」アントワネットは微笑んだが、その笑顔にはかすかな不安が隠れていた。彼女は病気に対する恐怖を口にすることはなかったが、その心には不安が芽生えていた。宮殿の外では、貧困と病が広がり、多くの人々が苦しんでいた。

王妃として、アントワネットはフランス国民の母であり、病に対して無関心でいることはできなかった。彼女はルイ16世に相談し、救済活動を行うことを決意した。

「私たちは何かしなければならない。この国の人々は私たちに頼っているのです。」彼女の声には決意がこもっていた。

ルイ16世は王妃の申し出を承諾し、宮殿の一部を病院として使用することを許可した。医師や看護師が招かれ、病に苦しむ者たちが治療を受ける場が設けられた。アントワネット自身もその場を訪れ、患者たちに手を差し伸べ、励ました。

ある日、彼女は宮殿の一角で、衰弱した少女を見つけた。少女は疫病に冒され、助かる見込みが薄いと言われていた。しかし、アントワネットは少女の手を取り、こう言った。「あなたはまだ若い。希望を捨てないで。」

少女はかすかに微笑み、その後、アントワネットは医師たちに最善を尽くすよう命じた。少女は奇跡的に回復し、彼女は王妃に深い感謝の意を表した。アントワネットの行動は宮殿内外で賞賛され、彼女の慈悲深い姿勢は多くの人々の心を動かした。

しかし、その一方で、王妃が病に接することは彼女自身の健康を脅かすものであった。宮殿内でも感染の危険があり、侍医たちはアントワネットに接触を控えるよう忠告した。

「王妃様、ご自身のお身体を大切になさってください。」侍医のヴェルモンが心配そうに言った。

「私が王妃である限り、国民を見捨てることはできません。」アントワネットは毅然と答えた。

しかし、疫病は容赦なく広がり続けた。彼女が接触した患者の中には、命を落とす者も多かった。アントワネットの心は重くなり、夜毎に病に冒された人々の顔が浮かんでくるようになった。

1785年、彼女自身が体調を崩し始めた。熱と倦怠感が彼女を襲い、寝室で休養を取るよう勧められたが、アントワネットは頑なに仕事を続けた。

「私が倒れるわけにはいかない。今こそ、私はこの国のために尽力しなければならないのです。」彼女の声には強い意志が感じられた。

しかし、病は日に日に彼女を蝕んでいった。やがて、彼女は倒れ、ヴェルサイユ宮殿の寝室に閉じ込められることとなった。侍医たちは彼女を看病し、治療にあたったが、回復は容易ではなかった。

アントワネットは熱にうなされながらも、病床でフランスの行く末を案じていた。彼女は自分が果たすべき責任と、愛する国民たちのために祈り続けた。

「フランスがこの疫病を乗り越え、再び繁栄することを願っています。」彼女は熱に浮かされながらも、静かに祈った。

その後、アントワネットは奇跡的に回復した。しかし、この経験は彼女に深い印象を残し、以降、彼女はより一層フランスの国民と国家のために尽力することを誓った。

病が彼女に与えた教訓は、彼女の心に深く刻まれ、アントワネットはより強く、そして慈悲深い王妃として、フランスの歴史にその名を刻み続けた。