悪役令嬢ですが、何か?

好きに生きる

好きに生きる

「どうせ、断頭台に立つのなら好きに生きるのよ。」マリー・アントワネットは鏡を見つめながらそうつぶやいた。彼女の姿は、かつての宮廷の豪華さとは異なり、黒と白を基調としたゴシックロリータのドレスに身を包んでいた。長いスカートが床を擦り、フリルとレースが彼女の小さな動きにも揺れる。頭にはカチューシャが乗り、黒いリボンが結ばれていた。

マリーは転生者だった。かつての人生ではフランスの王妃としての運命を背負い、豪奢な宮殿で過ごす日々の中で、彼女は自らの運命を見つめることができなかった。今世では、彼女は自分の人生を取り戻すため、全く新しい道を選んだ。彼女は「悪役令嬢」としての役割を演じるのではなく、自らの好みと興味に忠実であることを決意していた。

それもそのはず、マリーは注意欠陥多動性障害（ADHD）を抱えていた。過去の記憶が影響しているのか、彼女の頭の中は常に忙しく、ひとつのことに集中するのが難しかった。宮廷での義務や規則にはどうしても馴染めず、いつも周りの期待を裏切るような行動をしてしまっていた。それが宮廷内での彼女の評判を悪化させ、「悪役令嬢」というレッテルを貼られる原因ともなっていた。

だが、マリーはそんな自分を憎むことはなかった。むしろ、その特性が今の彼女を作り上げたと考えていた。ゴシックロリータのファッションに心惹かれたのも、普通の価値観からはみ出してしまう自分自身を表現する手段として自然に選んだものだった。黒と白のコントラストは、彼女の内なる反抗心と情熱を象徴していた。

「このドレス、素敵でしょう？」マリーは部屋に入ってきた侍女に向かって微笑んだ。侍女は少し驚いた様子だったが、すぐに微笑み返した。侍女もまた、彼女の変わった趣味に慣れてきていた。

「とてもお似合いですよ、マリー様。でも…王妃様がこんな姿で宮廷に現れるのは少々驚かれるかもしれませんね。」

「構わないわ。」マリーは軽く肩をすくめた。「宮廷でどう思われようと、私は私の人生を楽しむわ。どうせ最期が見えているのだから、後悔なんてしたくないの。」

侍女はその言葉に対して何も言えなかったが、心の中で彼女の勇気を讃えた。普通の人なら、運命に抗うことなく従うだろうが、マリーは違った。彼女は自分の意思を貫き通すために、あらゆる規範を破ることを恐れなかった。

宮廷での生活は相変わらず騒がしかった。政治的な陰謀や権力争いが絶えず、誰もが他人の目を気にし、何とかして自分の地位を守ろうとしていた。そんな中、マリーは自分の居場所を見つけることができなかった。だからこそ、彼女はあえて「悪役令嬢」という役割を選び、自分自身を表現するための手段としてゴシックロリータのファッションに没頭した。

宮廷での彼女の姿は異様でありながらも、次第に注目を集めるようになった。貴族たちは最初こそ眉をひそめたが、彼女の堂々たる態度に感化され、次第に彼女を一種の「象徴」として受け入れるようになった。彼女が転生者であることを知る者は誰もいなかったが、その独特の魅力と強い意志は、周囲に影響を与えずにはいられなかった。

そして、彼女は今、この世を去る準備をしていた。断頭台が近づいていることを知りつつも、彼女は恐れを感じていなかった。むしろ、それを迎える準備ができていた。「どうせ、断頭台に立つのなら、好きに生きるのよ。」その言葉を心に刻みながら、彼女は最後まで自分らしく生きることを選んだ。

断頭台への道は、彼女にとって新たな冒険の始まりだった。再び転生するかどうかはわからないが、彼女は次の人生でも、自分の意思を貫くことを誓った。彼女にとっての勝利とは、他人の目を気にせず、自分の道を歩むことだった。

マリー・アントワネット、かつての王妃は、今、全く新しい存在としてこの世界に別れを告げようとしていた。彼女の姿は、ゴシックロリータのドレスに包まれたまま、凛とした表情で断頭台へと向かっていった。誰もがその姿に驚き、そして尊敬の念を抱いた。

彼女の生き様は、後世の人々に語り継がれ、そして、彼女の精神は永遠に生き続けた。「好きに生きる」、その言葉が、彼女の残した最大のメッセージだった。