憧れから始まった恋

春秋花壇

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IF 歪んだ愛の結婚生活

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歪んだ愛の結婚生活

池田舞が山口陽と結婚したのは、誰もが驚いた出来事だった。舞は18歳、高校を卒業したばかりで、明るく人懐っこい笑顔を見せる一方、心の奥では他人への共感を欠くソシオパスだった。その舞と結婚したのが、陽、彼女の兄である連の親友で、24歳の若手IT企業の社長だった。

結婚の話が持ち上がったとき、連は全力で反対した。
「陽、お前正気か? 舞は、普通じゃないんだ。俺の妹をわかってるだろ?」
しかし陽は笑い飛ばした。
「連、俺は舞を愛してるんだ。それに、彼女が普通じゃないなんて言うけど、俺だって普通じゃない。俺たち、いいバランスなんだよ。」

舞は、結婚式の日も飄々としていた。純白のドレスに身を包んだ彼女は、完璧な新婦の振る舞いをしていたが、その内心は冷静そのものだった。
「この結婚で私は何を得られる? 成功した若手社長との生活。それ以上の条件を持つ相手なんて、そういない。」
彼女にとって結婚は、陽を利用するための手段だった。

結婚生活の幕開け
結婚後、二人は都内のタワーマンションに住むことになった。高層階の窓から見える夜景は圧巻で、家具もインテリアも舞にとって完璧だった。だが、彼女の心には欠けているものがあった。それは「心からの幸福感」だった。

陽は仕事に忙しい日々を送っていた。朝早く家を出て、夜遅くに帰ってくる生活。舞は家事をする必要もなく、全ては家政婦が片付けてくれる。彼女は昼間、フィットネスジムや高級カフェで過ごし、表面的には理想的な「若い社長夫人」を演じていた。

しかし、陽は舞の冷たい一面に気付いていた。
「舞、今日は一緒に映画でも観ようか?」
そう提案しても、舞はほとんど興味を示さなかった。彼女は笑顔を作りながら、適当な言葉で断る。
「ごめんなさい、今日はちょっと疲れちゃってるの。」

陽もまた、この結婚生活が異常であることを感じ始めていた。だが、それを言葉にすることはなかった。彼は舞に惹かれているだけでなく、どこかで彼女を支配したいという欲望を抱いていたからだ。

舞の計算
舞は陽を「利用する」つもりだったが、陽もまた舞を「手に入れる」ことを楽しんでいた。二人は表向き愛し合っているように見えたが、その実、二人の間には愛ではなく、歪んだ目的が渦巻いていた。

舞は、自分に尽くす陽の行動を観察するのが好きだった。陽がどれだけ彼女を愛しているのか確かめるために、わざと小さな嘘をついたり、感情的な試し行動を仕掛けたりする。
「陽、私、友達にお金を貸してあげたいの。彼女、すごく困ってるの。」
舞がそう言うと、陽はすぐに答えた。
「わかった、いくら必要なんだ?」

陽の反応に満足した舞は、陽に対する支配感を楽しんでいた。彼女にとって結婚は愛ではなく、ゲームのようなものだった。そして、陽もまた舞を完全に理解しつつ、そのゲームに参加している。

兄・連の訪問
ある日、兄の連が二人の家を訪ねてきた。久しぶりに会った妹の舞に、連は警戒心を抱いていた。
「舞、陽とうまくやってるのか?」
「ええ、もちろんよ。陽さんは最高の夫だわ。」
舞の笑顔は完璧だったが、その目には感情がこもっていなかった。連は小さくため息をついた。

一方で、陽は連の訪問を喜んでいた。久々の友人との再会だったが、連に言えない思いも胸にあった。
(お前の妹と暮らすのは、正直なところ刺激的だ。けど、これが幸せかどうか、俺にもわからない。)

連は陽の疲れた顔を見て、一瞬言葉を飲み込んだ。だが最後に一つだけ忠告した。
「陽……あまり舞にのめり込みすぎるなよ。」

歪んだ日常の先に
結婚生活は続いた。舞は冷たくも優雅に社長夫人を演じ、陽は仕事に精を出しながら彼女を支える。しかし、どこかで限界が来るのは明らかだった。

ある日、陽が舞に言った。
「舞、俺は君を愛してるけど、君はどうなんだ?」
舞はその問いに、初めて少しだけ考え込んだ。だが、彼女は笑って答えた。
「陽さんを尊敬しているわ。それじゃ、ダメ?」

陽はその答えに小さく笑い、舞の手を取った。
「いいさ。それで十分だ。」

だが、その時陽の心には、舞を完全に支配したいという欲望が渦巻いていた。一方で舞もまた、この結婚生活が自分の望むままに進んでいることに満足していた。

二人の関係は、愛ではなく計算で成り立っていた。だが、それでも二人にとっては「特別な結婚生活」だった。外から見れば理想的でありながら、その実、中身は歪んだ駆け引きと欲望が支配する生活。それが、舞と陽の結婚生活の真実だった。

そして、誰も知らない未来のどこかで、その歪みがどのような結末を迎えるのか――それは、まだ誰にもわからない。






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