憧れから始まった恋

春秋花壇

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月の下で

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月の下で

その日は、今年最後の満月だった。冬の冷たい空気の中、天空に浮かぶコールドムーンは、明るく輝いていた。陽はその月を見上げ、ふと舞のことを思った。舞が、月のような存在に感じられたからだ。

新月、三日月、半月、満月と、月は日々その形を変えていく。しかし、どれも同じ月であることを陽は理解していた。どんなに形が変わっても、月は月であり、その本質は変わらない。そして、陽は気づいた。自分にも優しい部分と冷徹な部分があるように、舞にも同じようにその両面があるのだと。

「月みたいだな、君は。」

陽はぽつりと呟いた。舞がその言葉を聞いて、振り返った。彼女の顔は冷静でありながら、どこか柔らかさを感じさせる。目を見開いて、少しの間陽を見つめた後、舞は静かに笑みを浮かべた。

「月?」

「うん。満月のように、君は輝いている。」

舞の顔に一瞬、驚きの色が浮かんだが、それもすぐに消え、代わりに冷徹な表情が戻ってきた。しかし、陽はその冷徹な顔さえも愛おしく感じた。それは舞が決して偽らない、彼女自身の顔だと理解したからだ。

舞の存在
舞と一緒に歩いていると、誰もが振り返る。まるで周囲の時間さえも止まるかのように、彼女の姿は目を奪ってやまない。長いまっすぐな黒い髪は、夜風に揺れながらその美しさをさらに引き立てている。大きな瞳は、どこか遠くを見つめているようで、見る者を引き込む。細い指が自然に歩調を合わせ、弾む胸、くびれた胴、そして桃のように丸みを帯びたお尻が、まるで完璧にデザインされたかのように美しい。

カモシカのように長く伸びた足は、どんな人々の視線をも奪っていく。陽はそんな舞を見つめ、心の中で自分に言い聞かせた。彼女を愛していると、心から思った。彼女の美しさも、そしてその中に隠された冷徹な一面も、何もかもが今の自分にとっては真実だった。

「どうしてそんなに美しいんだろう。」陽は思わず口にした。

舞はその言葉に一瞬だけ微笑んだ。「そんなこと、わからないわ。」

その冷静な一言が、陽の胸にぐっと響いた。舞は決して自分の美しさに溺れることなく、その冷徹さを失わない。だが、陽はその美しさが舞の本質の一部であり、彼女のすべてを受け入れるべきだと感じていた。舞がどれだけ冷徹であろうと、どれだけ計算高い部分があろうと、それが舞の「ありのまま」だということを理解していた。

受け入れる決意
陽は舞の隣を歩きながら、自分が決めたことを再確認した。この若さでIT企業の社長として成功を収めている自分にとって、冷徹で計算された愛など無意味だと思った。愛は、どんなに醜い部分でも、どんなに痛い部分でも受け入れることだ。舞がもし、何かを隠しているとしても、それも含めて彼女を愛し、受け入れようと決めた。

他人が舞をどう思おうと、彼女をどう評価しようと、もうそれに意味はない。舞が誰であろうと、陽はただ彼女を自分のものとして受け入れることにした。だまされているとしても、それがどうした。舞を愛すること、それがすべてだった。

「舞、君のすべてを受け入れる。」陽は改めて心の中で誓った。声には出さず、しかしその決意を強く抱いた。

舞は何も言わずに歩き続けた。けれども、その沈黙の中にどこか答えを求めているような気配を感じ取った陽は、手を伸ばして舞の手を取った。

舞はその手を見つめ、少し驚いた様子を見せたが、すぐに無表情に戻った。それでも、陽は舞の手をしっかりと握りしめた。舞はその手を振りほどこうとはせず、しばらくそのまま歩き続けた。

陽の心は揺れ動くことなく、舞との未来を感じていた。舞がどれだけ冷徹であろうと、彼女がどんな意図で自分に接してきたとしても、それが舞自身の本当の姿であり、それを受け入れ、愛することこそが彼の決断だった。

「私は君を愛している。」陽は小さな声で言った。

舞はその言葉を、少しだけ耳にした後、目の前に広がる道を見つめながら、静かに答えた。「そう、ならばいい。」

その言葉に、陽は再び確信を得た。舞がどんな人物であろうとも、自分は彼女と共に生きるのだと決めた。そして、それが自分にとっての「愛」だと信じている。

月の光が二人を照らし、周囲の世界が静かに見守る中、陽と舞は手を取り合って歩き続けた。

終わり






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