幸せな結婚ができる人 短編集

小さな幸せの見つけ方

「小さな幸せの見つけ方」

澪（みお）は、夕暮れ時の公園を歩いていた。冬の冷たい空気が頬を刺すけれど、遠くに見える夕焼けの美しさがその寒さを和らげてくれる気がする。彼女はカフェの帰り道、ふと気まぐれで寄り道をしてみた。最近、仕事と家の往復ばかりで心が疲れていたから、少しでも違う景色が見たかったのだ。

「こんな時に誰かがいてくれたらな」
心の中で、自然とそんな言葉が浮かんだ。つい最近、長く付き合っていた彼氏と別れたばかりだった。原因は些細なすれ違いの積み重ね。でも、その些細さが大きな溝となり、結局二人の関係は壊れてしまった。

ベンチに腰を下ろし、手袋越しにスマホを取り出す。SNSを見ても、友人たちの楽しそうな写真が並ぶばかりで、彼女の心を満たしてはくれない。

「なんで私だけ、こんなに満たされないんだろう？」
ぼんやりとそんなことを考えていると、ふと小さな子供の声が聞こえてきた。

「ママ、見て！お月さまが追いかけてくるよ！」
振り向くと、2、3歳くらいの男の子が母親の手を引いて空を指差していた。夕焼けに浮かぶ月を見て無邪気に笑うその姿に、澪は思わず微笑んでしまった。

「そっか、あんな風に小さなことでも喜べたらいいのかな…」
そう呟くと、心の中に少しだけ暖かさが広がった気がした。

その帰り道、カフェで見つけたお気に入りのマフラーを巻き直しながら、彼女は思った。「幸せって、誰かが与えてくれるものじゃなくて、自分で見つけるものなのかもしれない。」

翌日、澪は意識していつもと違うルートで通勤することにした。途中で見つけたパン屋にふらりと入ると、焼きたてのクロワッサンの香りが彼女を包み込んだ。朝食にそれを買い、オフィスに着く前に公園のベンチで食べてみる。サクサクとした食感とバターの香ばしさが口の中に広がり、自然と笑みがこぼれた。

「こんな小さなことでも、幸せって感じられるんだな」
その瞬間、彼女の心はほんの少し軽くなっていた。

数週間後、澪は新しい趣味として、地元の料理教室に通い始めた。そこには同じように日々の生活に新しい風を入れたいと考える人たちが集まっていた。クラスの中でひときわ目立つのは、年下の涼（りょう）という青年だった。

彼は澪よりも少し若いが、気さくで明るく、どんな状況でも笑顔を絶やさない性格の持ち主だった。澪が初めて作るパスタのソースを焦がしてしまったときも、涼は軽やかにフォローしてくれた。

「焦げたソースも、ちょっと工夫すれば美味しくなるよ！」
そう言って、彼は新しい材料を取り出し、澪にアドバイスをしながら一緒に作り直してくれた。

その結果、澪のパスタはなんとか形になり、彼の笑顔に釣られて自然と笑みが浮かんだ。

涼との交流を通じて、澪は自分の考え方が少しずつ変わっていくのを感じた。彼のように、どんな状況でもポジティブな視点を持つことは簡単ではないが、それでも「楽しもう」という姿勢が大切なのだと学んだ。

「幸せは、目の前にあるものに気づくことから始まるんだね。」
そう思い始めた頃から、澪の日常は少しずつ輝き始めた。

ある日、料理教室の帰り道、涼がふと話しかけてきた。

「澪さん、最近すごく楽しそうだよね。最初に会った頃とは全然違う。」
「そう見える？」
「うん。何か変わったの？」

澪は少し考えた後、笑顔で答えた。

「幸せって、大きなことじゃなくて、小さなことに気づく力なんだって思えたからかな。」

涼は嬉しそうに頷いた。

「その考え、素敵だね。でも、澪さんの笑顔が何より幸せを運んできてる気がするよ。」

彼の言葉に、澪の心はポカポカと暖かくなった。その瞬間、澪は気づいた。幸せは自分だけで完結するものではない。誰かと分かち合うことで、さらに大きく広がるのだと。

それから、澪と涼の交流は続き、いつしかそれは友情から特別な感情へと変わっていった。彼との時間を過ごす中で、澪はどんな瞬間にも幸せを見つけられるようになっていた。

「幸せは、心の持ち方次第。これからも小さな喜びを見逃さない人でいよう。」
そう決意した澪の心には、これまでにない穏やかな満足感が広がっていた。

解説
この物語は、失恋で傷ついた主人公が、日々の中で「小さな幸せ」を見つけることで心を癒し、新たな愛に出会うまでを描いています。幸せは外的な条件によるものではなく、内面的な気づきから生まれるというメッセージを伝える内容になっています。