幸せな結婚ができる人 短編集

誠実な心

「誠実な心」

中世ヨーロッパ、ヴェルダンの小さな領地で物語は始まる。この領地は山々に囲まれた平和な場所で、貴族たちが何世代にもわたって統治していた。しかし、時が経ち、時折不安定な時期を迎えることもあった。そんな中で、若き領主アラン・ド・ヴェルダンは、父の急死を受けて領地を引き継ぐこととなった。

アランは、その冷静な頭脳と優れた戦術で知られていたが、彼の真の力はその誠実な性格と他者への気配りにあった。彼は常に領地内の農民たちや使用人たちの幸福を最優先に考えていた。それが他の貴族たちにはない、彼の大きな特長だった。

そんなアランの心にいつしか、同じ領地に住む貴婦人、アリス・フィリップスの存在が深く刻まれるようになった。アリスは、領主家の近隣の貴族の家族で、若くして未婚だった。彼女は非常に美しいだけでなく、その思慮深さと心の優しさでも知られていた。彼女は、村の貧しい家族に食料を分け与え、助けを必要とする人々に手を差し伸べていた。

ある日、アランは領地の近くで起きた小さな騒動の後、アリスと偶然に出会うこととなった。アランはその日、村の農民たちと会議をしていたが、その帰り道でアリスが一人の小さな子供に食べ物を与えている場面を目撃した。彼女はその目をやわらかく向け、言葉少なに子供に優しい微笑みを向けていた。

アランはその光景に心を打たれた。彼女のその無償の行動、周囲の人々に対する無尽蔵の優しさに彼は感銘を受け、静かにその場を離れたが、その後もアリスのことが頭から離れなかった。

数週間後、アランは再びアリスと顔を合わせる機会が訪れた。今回は彼がアリスに声をかける番だった。

「アリス様、先日は村の広場でのご様子を拝見しました。あの小さな子供に食事を与えるあなたを見て、私は心から感動しました。」

アリスは一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに穏やかな笑顔を浮かべた。

「そんな、大したことではありません。私はただ、できることをしているだけです。困っている人がいれば、手を差し伸べるのは当然のことだと思っています。」

その言葉に、アランはますます彼女に強く惹かれていった。彼女の言葉の裏には、他者を思いやる深い情熱と、決して自己を誇ることのない謙虚さが感じられた。

「そのようなお考えをお持ちの方は少ないです。私はあなたのような方に心から尊敬の念を抱きます。」

アリスは少し戸惑いながらも、感謝の気持ちを込めて言葉を返した。

「ありがとうございます。しかし、私はただ自分にできることをしているに過ぎません。それに、私ができることはほんのわずかなことです。もっと多くの人々に手を差し伸べるべきだと常に感じています。」

アランはその言葉を聞いて、アリスがどれほど誠実で謙虚な人物であるかを再認識した。そして、彼はその夜、彼女の美しさだけでなく、その思慮深さと献身的な精神を愛おしく感じた。

日が経つにつれ、アランとアリスは何度も顔を合わせるようになった。二人の会話は次第に深くなり、アランは彼女の人柄にますます魅了されていった。アリスもまた、アランが持つ思慮深さや誠実さに共鳴し、次第に彼に対して特別な感情を抱くようになった。

ある日、アランはアリスを領主邸に招待し、彼女にこう言った。

「アリス様、あなたは私にとってかけがえのない存在です。あなたのような人が隣にいてくれることで、私は自分の領地をもっと良いものにしたいと心から思っています。もし、あなたが私の妻となってくれるなら、私たち二人でこの領地をより良い場所にしていきたいと思います。」

アリスは一瞬驚いたが、その後、静かに微笑みながら答えた。

「アラン様、あなたのその気持ちに深く感謝します。私もまた、あなたのような人と共に歩んでいけることを光栄に思います。」

こうして、アランとアリスは結婚することとなった。二人は共に過ごす日々の中で、常にお互いの良い特質や努力に注目し、支え合って生きていくことを誓った。アランはアリスが見せてくれる無償の愛と優しさに学び、アリスはアランの冷静で誠実な判断力に感謝しながら、共に領地を治めていった。

彼らの結婚は、ただの愛情にとどまらず、共に育み、共に歩むことを選んだ二人の誠実な心から生まれたものであった。