幸せな結婚ができる人 短編集

春秋花壇

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幸せの城

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「幸せの城」

中世ヨーロッパ、緑豊かな小国アルヴェールには、幸福な結婚を導くと噂される「幸せの城」があった。この城は、結婚式場として使われ、誰もがそこで誓いを立てると生涯愛が続くと信じられていた。だが、この噂には隠された秘密があった。城の主人であるレオナ伯爵夫人が、新婚の二人に人生の知恵を授けていたのだ。

伯爵夫人レオナは若いころ、辛酸をなめた結婚生活を経験していた。夫との愛情のすれ違い、城の維持費による経済的困難、そして貴族社会の冷たい視線。しかし彼女は諦めることなく、自らの努力で問題を乗り越え、夫と再び深い信頼関係を築くことに成功した。その経験を元に、若い夫婦に「幸せの秘訣」を伝えることを人生の使命としていたのだ。

ある日、城を訪れたのは若い農夫のセバスチャンと仕立て屋の娘クラリスだった。セバスチャンは筋骨隆々の働き者で、誠実そのものの青年。一方、クラリスは小柄で優しい瞳を持つ、温和な性格の女性だった。二人は幼いころからの知り合いで、村中が祝福する仲睦まじい恋人だった。

「幸せの城で結婚式を挙げるのが夢でした!」と、クラリスはレオナ夫人に興奮気味に話した。セバスチャンはそんな彼女を優しい目で見守りながら、「ここで誓いを立てることで、彼女を一生幸せにすると約束します」と力強く宣言した。

レオナ夫人は微笑みながら、二人を城の応接室に招いた。「素晴らしい心意気ね。でも、愛情だけでは幸せな結婚を続けるのは難しいものよ。結婚は、互いに支え合い、尊重し、時には忍耐を学ぶ旅なの。少し私の話を聞いてくださらない?」

セバスチャンとクラリスは、夫人の言葉に耳を傾けた。

「幸せな結婚に必要なのは三つの鍵よ。」夫人はそう切り出した。「第一に、感謝の心を持つこと。どんな小さなことでも、相手がしてくれたことに感謝を伝えなさい。」

クラリスが小さく頷くと、夫人は続けた。「第二に、お互いの夢を尊重すること。時には相手の夢のために自分の計画を後回しにすることもあるかもしれないけれど、それが二人の絆を強くするの。」

セバスチャンは真剣な表情で、「僕はクラリスが幸せでいることが一番の夢です」と答えた。その言葉に、クラリスは涙ぐんだ。

「そして最後に、第三の鍵は許し合うこと。誰しも間違いを犯すものだけれど、それを許し、再び前を向けるかが大切よ。」

夫人の言葉を胸に刻み、二人は「幸せの城」で結婚の誓いを立てた。その日、クラリスは純白のドレスをまとい、セバスチャンは村で一番の仕立て師が作った新しいスーツを身にまとった。城中が祝福の鐘の音と笑顔に包まれた。

結婚式の後、夫人は二人を見送りながら言った。「これから先、嵐の日もあるでしょう。でもこの城で学んだことを思い出して、お互いを信じ合ってください。幸せな結婚は、努力と信念の上に築かれるものですから。」

それから数年後、セバスチャンとクラリスは村で一番幸せな夫婦として知られるようになった。セバスチャンは農業で成功し、村の人々を助けることに喜びを見出していた。クラリスは仕立て屋として腕を磨き、村の女性たちの憧れとなった。そして二人の家はいつも笑顔と温かさに満ちていた。

ある日、二人は「幸せの城」を再訪した。レオナ夫人に感謝の言葉を伝えるためだ。夫人は老いてなお威厳を失わず、二人を迎え入れた。「あなたたちのように、幸せを手にした夫婦を見るのが私の喜びです。」

クラリスは笑顔で言った。「夫人のおかげで、結婚は努力が必要なものだと理解できました。でも、それ以上に素晴らしいものだと日々実感しています。」

セバスチャンも続けた。「僕たちは、夫人の教えを胸に、これからも幸せな日々を作り続けます。」

二人の言葉に、レオナ夫人は深く頷き、静かに微笑んだ。その姿は、幸せな結婚が何よりも尊いものであることを物語っていた。







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