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一人ぼっちのクリスマスイヴ、スライムと過ごす夜

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全文改稿ですね、承知いたしました。前回の修正案を参考に、さらに加筆修正を行い、下記のように全文改稿いたしました。

一人ぼっちのクリスマスイヴ、スライムと過ごす夜

古びたマンションの一室。薄暗い部屋の中で、田中清(たなかきよし)は静かにため息をついた。70歳。妻に先立たれてから、ひとりでの暮らしが長い。今日はクリスマスイヴ。かつては家族で賑やかに過ごした日も、今は遠い記憶の中だ。

テレビでは楽しげなクリスマス特番が流れているが、清にはどこか他人事のように感じられた。食卓には、スーパーで買ってきた惣菜のパックが寂しげに並んでいる。冷え切った部屋の空気は、清の心の寂しさをさらに際立たせるようだった。

「また今年も、一人か…」

清は呟きながら、ふと棚の奥に目を向けた。その視線の先にあったのは、孫の健太が小さかった頃にくれた、ドラクエのスライムのぬいぐるみだった。ぷにぷにした水色のそれは、長年棚の奥にしまわれていたにもかかわらず、どこか愛嬌のある顔でこちらを見ているようだった。

「そういえば、健太はドラクエが好きだったな…」

清はスライムのぬいぐるみを手に取った。ぷにぷにした感触が、幼い健太の頬の柔らかさを思い出させた。思い出すのは、健太と一緒に過ごしたクリスマス。毎年、何かしらプレゼントを渡して、笑い声が部屋に響いていた日々。暖炉の火を囲んで、家族みんなで歌を歌ったこともあった。

「今年は、何か特別なことをしてみようかな」

ふと思い立った清は、冷蔵庫を開けた。中にはレタス、トマト、ブロッコリー、バナナが少しずつ入っている。「これで、何か作ってみようか」

スマートフォンを取り出し、「ドラクエ サラダ」と検索してみると、スライムを模したサラダの写真がいくつか出てきた。オーブンでじっくりと温められたチキンは、食欲をそそる香りを部屋中に漂わせている。

「なるほど…こうやって作るのか…」

清は写真を見ながら、自分なりにアレンジしてみることにした。レタスを敷き詰め、ブロッコリーでスライムの形を作る。トマトをスライムの目に見立て、バナナをおかずとして添えてみた。そして、先ほど手に取ったスライムのぬいぐるみを食卓に飾った。

「ぶるぶる…ボクだけじゃないよ…」

清はぬいぐるみに向かって冗談を言いながら、少し笑みをこぼした。作り上げたサラダを見て、なんとなく嬉しい気持ちが込み上げてくる。今、目の前に広がるのは健太との思い出と、少しの楽しみだ。

「なかなか、いい出来じゃないか」

清は自分に言い聞かせるように呟きながら、食卓にサラダ、温めたチキン、冷えたビールを並べた。テレビを消し、代わりに静かなクラシック音楽を流す。柔らかな弦の旋律が、過ぎ去った日々への郷愁を誘う。そうすることで、あの日々を少しでも取り戻せるような気がした。

「よし、始めるか」

清は手を合わせて、「いただきます」と呟く。サラダを口に運ぶ。シャキシャキとしたレタス、トマトの酸味、ブロッコリーのほのかな苦味が口の中で広がる。それは、久しぶりに感じる満足感だった。冷たいビールが、喉を通り過ぎる。

「うまい…」

清は小さく呟いた。ひとりで食べる食事は、どうしても味が薄く感じがちだが、今日は違った。スライムのぬいぐるみを見つめながら食べるうちに、まるで健太と一緒に食卓を囲んでいるかのような、温かい感覚が広がっていった。

食事を終え、ビールを飲みながら、清は過去のことを思い出していた。健太が小さい頃、一緒にドラクエを遊んだこと。毎年、クリスマスには健太が欲しがっていたゲームソフトをプレゼントし、二人で楽しそうに開けたこと。プレゼントを開ける時の、健太のキラキラした瞳が、今でも目に焼き付いている。

「健太も、もう大きくなったな…」

今は遠く離れて暮らしている健太。最後に会ったのは、もう何年も前になる。

「元気でいるだろうか…」

胸の奥に小さな穴が開いたような気がしたが、すぐに頭を振った。今日はクリスマスイヴだ。悲しんでいる場合じゃない。健太との大切な思い出を、今日は大切にしよう。

片付けを終え、部屋の電気を消して窓から見える夜空を眺める。満月が静かに輝いている。冷たい風が窓ガラスをかすめる音が聞こえる。

「メリークリスマス…」

清は小さく呟き、目を閉じた。すこしだけ、心が軽くなった気がした。

翌朝、カーテンの隙間から差し込む朝の光で、清はゆっくりと目を覚ました。窓の外は、うっすらと雪化粧をしている。昨夜の雨が、雪に変わったようだ。清はゆっくりと起き上がり、窓辺に近づいた。冷たい空気が頬を撫でる。澄んだ空気の中、遠くの山々が白く輝いているのが見えた。

昨夜のサラダの残りを食べ、温かいコーヒーを飲みながら、静かな朝を迎えた。いつもより少しだけゆっくりと時間が流れているように感じた。

「今日は、健太に電話してみるか…」

清は携帯電話を手に取りながら、久しぶりに孫の声が聞けるかもしれないと思った。それだけで、心が温かくなった。

一人ぼっちのクリスマスイヴ。それは決して寂しいだけの日ではなかった。過去を振り返り、未来に希望を見出す日でもあった。スライムと過ごした夜は、清にとって忘れられないクリスマスイヴとなった。

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