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春秋花壇

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ダイヤモンド・パールフィズ

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ダイヤモンド・パールフィズ

木枯らしが吹き荒れる年の瀬、夜の帳が下りた街は、イルミネーションの光に彩られていた。70歳になる独居老人の私は、いつものようにコートの襟を立て、馴染みのBAR「moon shine dock」へと足を運んだ。

扉を開けると、温かい空気とジャズの調べが私を迎える。カウンターの奥では、マスターがグラスを磨いていた。

「いらっしゃい、いつもの席へどうぞ」

マスターの優しい声に促され、私はカウンターの一番奥、窓際の席に腰を下ろした。そこは、外のイルミネーションを眺めるのに絶好の場所だった。

「今日は何か特別なものでも?」

マスターが尋ねる。私は今日のお目当てを告げた。

「ああ、新しいカクテルですね。『ダイヤモンド・パールフィズ』。ジンとレモンジュースをシェイクして、スパークリングワインで満たし、仕上げにパールリキュールとバタフライピーですか。面白い組み合わせですね」

マスターは手際よくカクテルを作り始めた。シェイカーの中で氷と液体がぶつかり合う音が、心地よく響く。グラスに注がれたカクテルは、淡い水色から徐々に深い青へと変化していく。バタフライピーがスパークリングワインと混ざり合い、幻想的なグラデーションを生み出していた。最後にパールリキュールが数滴落とされると、グラスの底で真珠のような輝きを放った。

「どうぞ、年末の乾杯に」

マスターがグラスを差し出す。私はそれを受け取り、窓の外のイルミネーションを見つめた。街の喧騒は遠く、BARの中は静かで落ち着いた時間が流れている。

「いただきます」

一口飲むと、ジンのキリッとした風味とレモンの酸味が口の中に広がり、後からスパークリングワインの爽やかな泡が追いかけてくる。パールリキュールのほのかな甘みが、全体を優しく包み込んでいる。バタフライピーの鮮やかな青色は、まるで夜空のようだった。

「これは…美味しいですね。見た目も綺麗ですし」

私が感想を述べると、マスターは嬉しそうに微笑んだ。

「ありがとうございます。年末の特別な夜に、少しでも華を添えられればと思って」

BARには、私以外にも数人の客がいた。カップル、仕事帰りのサラリーマン、一人静かにグラスを傾ける女性。それぞれがそれぞれの時間を過ごしている。私は、グラスを傾けながら、今年一年を振り返っていた。

特に大きな出来事があったわけではない。いつもと変わらない日々。朝起きて、食事をし、仕事をし、夜は家で過ごす。ただ、一人で過ごす時間が増えたように感じる。子供たちは独立し、家を出て行った。妻は数年前に他界した。

静かな生活は、穏やかではあるが、時に寂しさを感じる。そんな時、私はこのBARに足を運ぶ。マスターとの会話、他の客たちの話し声、そして美味しいお酒。それらが、私の心を温めてくれる。

「マスター、もう一杯同じものを」

私は空になったグラスをカウンターに置いた。マスターは快く頷き、二杯目の『ダイヤモンド・パールフィズ』を作り始めた。

二杯目を飲み終えた頃、隣の席に座っていた男性が話しかけてきた。

「そのカクテル、綺麗ですね。名前は何て言うんですか?」

私は『ダイヤモンド・パールフィズ』という名前と、バタフライピーを使っていることを説明した。男性は興味深そうに聞き入り、自分も同じものを注文した。

その後、男性と少し話をした。彼は仕事でこの街に来ており、今日は一人で飲みに来たらしい。他愛もない話だったが、誰かと話をするのは久しぶりだった。

店を出る頃には、外はさらに冷え込んでいた。私はコートの襟をしっかりと立て、夜の街を歩き出した。イルミネーションの光が、私の背中を優しく照らしている。

空を見上げると、満月が輝いていた。先ほど飲んだカクテルの青色を思い出す。ダイヤモンドのように輝くイルミネーション、真珠のようにグラスの底で輝くパールリキュール。そして、夜空の月。それらはすべて、私にとってかけがえのないもののように感じられた。

一人で過ごす年末。寂しいと感じることもあったが、BARで過ごした時間、マスターとの会話、隣の客との出会い、そして何より、美味しいカクテル『ダイヤモンド・パールフィズ』。それらは、私の心を温かく満たしてくれた。

私は、来年もまたこのBARに来ようと思った。そして、来年もまた、この街のイルミネーションを見に来よう。一人ではあるが、決して孤独ではない。そう感じながら、私は家路を急いだ。

皆様の年末にcheers。

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