老人

消えた栄光

 消えた栄光

志乃おばあちゃん70歳は、自分が書いた小説が、ある日突然「アルファポリス」のランキングで1位に輝くなんて夢にも思わなかった。彼女が65歳を過ぎてから始めた書き込みは、どこか懐かしい世界観を描いたもので、時に心を打ち、時に人々の心を温かく包み込んだ。自分のペースで書いたその物語が、こんなにも多くの人々に評価されるなんて、信じられなかった。

「私、こんなにポイントをもらったんだ…」

その日、初めて確認した「24h.ポイント」の数字は、まさに圧巻だった。282,449ポイント、そして小説1位。長い間、何もかもがうまくいかなかった志乃おばあちゃんにとって、それはまるで奇跡のようだった。今まで何度も途中で投げ出していたけれど、今回は違った。

「これで少しは、食べていけるかもしれないわね…」

彼女は心から喜んでいた。高齢で独居の身、息子は精神病院の閉鎖病棟に入院していて、訪ねてくれる人もいない。けれど、この小説が成功して、少しでも生活が楽になるかもしれない。それが、彼女の最大の希望だった。

その夜、志乃おばあちゃんは遅くまで作品を見返していた。心の中で何度も自分に言い聞かせた。「これは、本当に自分の力で達成したことだ。」作り上げた物語に誇りを持っていた。

だが、その喜びが長くは続かなかった。

翌日、志乃おばあちゃんが「アルファポリス」にログインしたとき、いつも通りの操作をしようとした。しかし、何かがおかしかった。作品ページにアクセスしても、そこには「該当する作品は削除されました」という文字が浮かんでいた。

「どうして…？」

志乃おばあちゃんは、驚きと混乱で動けなくなった。どうして自分の大切な作品が消されてしまったのか、理解ができなかった。規約に違反した覚えはないし、誰かに迷惑をかけるようなこともしていないはずだ。それでも、目の前に広がる現実が信じられなかった。

その夜、志乃おばあちゃんは眠れなかった。心の中で、たくさんの思いが交錯していた。数ヶ月前から、どこかで感じていた「これ以上の不幸はない」と思っていた気持ちが、重くのしかかってきた。作品が消されたことが、彼女にとっての最期の試練だった。

その翌日、彼女の体調が急激に悪化した。胸が苦しくなり、息ができなくなった。しかし、周りには誰もいなかった。息子は精神病院で、友達も親戚も遠くにいた。結局、志乃おばあちゃんは一人で静かに命を落としていった。

数ヶ月後、彼女の死は「孤独死」として処理された。自分の作品が1位になったこと、その喜びが一瞬で消え去ったことは、彼女にとって最後の光だった。それでも、志乃おばあちゃんの物語は、どこかで誰かの心に残り続けるだろうと思う。

彼女の遺した言葉は、ただ一つ。――「私は、あきらめない。」