老人

光陰矢の如し

『光陰矢の如し』

「光陰矢の如し」とはよく言ったものだ。気づけば、あの寂しさを感じて泣きながら訪問看護の人に電話したのが、もう一週間前のことだ。その時の私の気持ちは、今でもはっきり覚えている。心の中に大きな空洞が広がって、誰かと話さなければ、誰かに声をかけてもらわなければ、もう耐えられないような気がしていた。

しかし、今振り返ると、その一週間はあっという間に過ぎていた。毎日同じように過ごし、静かな日々が続いたが、それでも時間だけは確実に過ぎていく。掃除の手伝いに来てくれたヘルパーさんが、一緒に台所を片付けてくれた日も、あっという間だった。彼女が持ってきた掃除用具を使って、二人であれこれとやっているうちに、部屋の中が見違えるようにきれいになった。その時の私の心の中には、どこか安心感が広がっていた。きれいになった部屋を見て、まるで誰かが自分のことを気にかけてくれているような温かい気持ちになった。

それから一週間が経ち、今はこうしてまた、ただ静かな部屋の中に一人きりだ。外の風が冷たくて、窓の外の木々が揺れているのを眺めていると、少しだけ切ない気持ちになる。でも、それでも、あの寂しさの中にいるよりはずっと楽になった。訪問看護の人に電話をかけた時のことを思い出すと、少し恥ずかしい気持ちも湧いてくる。あの時、私は本当にひどく孤独を感じていた。でも今は、その時よりも少しだけ落ち着いていられる。きっと、ヘルパーさんが来てくれて、部屋がきれいになったことで、心の中に少し余裕が生まれたからだろう。

それでも、ふとした瞬間に寂しさがやってくる。朝食を作るとき、昼食の支度をする時、そして夜寝る前。誰かと一緒に食事をしたり、話したりすることができたら、どんなに幸せだろうと思うことがある。でも、そんなことを思っても仕方がないと、心の中で自分を静かに諭すようにしている。

「もう、年だからね」と、独り言をつぶやくことが増えてきた。この歳になってくると、体力も落ち、少しずつできることが減っていく。以前なら、簡単にこなせていたことも、今では少し時間がかかるようになっている。時には、体が思うように動かないことに苛立ちを覚えることもあるけれど、それでも仕方がないと、諦めるしかない。そんな気持ちを、だんだんと受け入れられるようになった自分がいる。

一人暮らしが長くなってきて、家の中もだんだんと物が増えてきた。使わなくなったものや、もう必要のないものがいつの間にか積み重なっている。そんな物を整理していると、昔のことが思い出される。昔は家族みんなで住んでいた。この家には、かつて笑い声が響き、食卓を囲んで賑やかな会話が交わされていた。しかし、時間が過ぎ、ひとりになってしまった今、その家の中には静けさしかない。家族が去った後も、この家を離れることなく、私は一人で暮らし続けている。

しかし、何年経っても、家族のことを思い出さない日はない。特に孫たちのことを考えると、胸が痛む。孫たちはもう遠くに住んでいて、会いに来ることも少なくなった。電話でのやり取りが続いているけれど、やはり顔を見て話すことができないのが寂しい。私の年齢では、旅行に出かけるのも難しくなってきたから、孫たちに会うためにわざわざ出かけることもできない。

それでも、家族が元気でいてくれることだけが、私にとっては大きな支えだ。あの時、訪問看護の人に泣きながら電話した時、彼女が「あなたのご家族は、いつもあなたのことを気にかけているんですよ」と言ってくれた言葉が、今でも心に残っている。その言葉を聞いたとき、少しだけ気持ちが軽くなったような気がした。

時は流れ、私は歳を取っていくけれど、家族のことを思い出すたびに心が温かくなる。遠くにいても、電話をしてくれる孫たち、訪問看護の人たち、ヘルパーさん、すべての人々の思いやりが、私を支えてくれていることを感じる。

「このまま、日々を穏やかに過ごせたらいいな」と、私は静かに願う。たとえ一人でも、少しでも心が温かくなるような日々が続いてほしいと願いながら、次の一週間を迎えようとしている。

時間は、あっという間に過ぎていくものだ。けれど、その中で少しずつでも幸せを感じて、毎日を大切に生きていきたいと思う。どんなに孤独を感じる時も、心の中に小さな希望を持って。