老人

変わりゆく日々の中で

「変わりゆく日々の中で」

70歳の一人暮らしの老人、徹は、今日からデイサービスに通うことになった。歳を重ねるごとに体力は落ち、生活の細かな部分にも不自由さを感じるようになってきた。家族や友人に勧められてデイサービスを申し込んだものの、徹は心のどこかで後悔していた。決まった曜日に決まった時間に通うという、いわば「決まりごと」に縛られるのが苦手だったからだ。

若い頃から徹は自由を愛してきた。毎日の予定に縛られることなく、気の向くままに行動することに喜びを感じていた。結婚も経験したが、自分に合わないと感じると、無理をせず独りを選んだ。そして、それを後悔することもなかった。自分の人生を自由に生きるための選択であり、それこそが彼の「責任の取り方」だったからだ。

しかし、今は少し違う。体も思うように動かなくなり、やりたいことがあっても、できないことが増えてきた。「この年で、デイサービスなんて…」と心の中で愚痴をこぼしながらも、同時にふと自問する。「この変化に馴染めないのは、歳を取ったからなのか。それとも、ただ自分が変わりたくないだけなのか…」

デイサービスの初日、迎えの車が玄関前に止まる。徹は渋々とした表情を浮かべながらも、車に乗り込んだ。サービスセンターに到着すると、同じような年代の人々が、にこやかに会話を交わしている光景が目に入った。誰もが初めての場所で戸惑うこともあるが、周囲の人たちが楽しそうに過ごしているのを見ると、少し気持ちが和らいだ。

職員の案内に従いながら、徹はゆっくりとセンター内を見て回った。ふと気づくと、手芸や絵画など、さまざまな活動が行われている一角があり、そこに集まる人々の真剣な表情に魅了された。これまで特に興味があったわけではないが、何かを作り出す人々の姿に感銘を受け、自分も少し試してみようかと感じた。

午前の活動が終わり、昼食の時間になる。誰かと一緒に食事をすることが久しぶりだったため、少し戸惑いを覚えながらも、目の前に座った老人が声をかけてくれた。気さくな笑顔に心がほぐれ、徹も次第に笑顔で応えるようになる。話をしてみると、その老人も最初はデイサービスに抵抗があったという。「でもね、こうして新しいことを始めてみると、意外と悪くないもんだよ。」彼の言葉に、徹は少しだけ自分の考えが変わるのを感じた。

午後の活動では、徹も絵画の教室に参加してみた。子どもの頃以来、絵筆を握るのは初めてで、ぎこちない手つきではあったが、それでもキャンバスに色を塗ることに新鮮な喜びを覚えた。思わぬところで、日々の小さな楽しみが見つかることに驚き、心の奥でくすぶっていた不満が少しずつ薄れていく。

その日の帰り道、徹はふと考える。歳を取ることは、変化を受け入れることかもしれない。確かに、自由であることは大切だ。しかし、自由を求め続けることと、時折他者に身をゆだねることは、相反するものではないのかもしれない。変化を受け入れることで新たな視野が開けるならば、それもまた一つの自由の形なのではないか、と。

家に帰ると、心に小さな安堵が広がった。デイサービスに通うことが、自分にとっての成長の機会であり、新しい何かを見つける旅の始まりかもしれない。少しずつでも変化に馴染みながら、新しい日々に向き合うことに決めた徹は、次のデイサービスの日をほんの少しだけ楽しみにする自分がいることに気づいた。