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春秋花壇

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デイサービスの風景

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「デイサービスの風景」

ある初夏の午後、佐伯和夫はデイサービスの施設を見学に訪れた。70歳を超え、体力の衰えを感じ始めた佐伯は、家族や医者から勧められていたデイサービスに少しずつ関心を持つようになっていた。しかし、通う決心はまだつかず、その日は施設の様子を見てみようと軽い気持ちで訪れたのだ。

玄関をくぐると、すぐにスタッフが笑顔で迎えてくれた。「こんにちは。見学にいらしてくださったんですね。」そう言って手を差し出したのは、若い介護スタッフの女性だった。彼女の柔らかい声と丁寧な対応に、佐伯は少し緊張がほぐれた。案内を受けながら、施設の中を一つひとつ説明してもらい、デイサービスがどんなところなのかを少しずつ知っていった。

最初に案内されたのは、広々としたリハビリルームだった。明るい窓からは陽の光が差し込み、清潔感が溢れている。佐伯が目を奪われたのは、そこに並ぶスポーツ器具の数々だ。エアロバイクや平行棒、ストレッチマシンに加え、さまざまな筋力トレーニング用の器具がそろっていた。器具に取り組む利用者たちは、黙々と汗を流している人もいれば、スタッフに声をかけられながらリズムよく足を動かす人もいて、みんな一心不乱に運動に集中していた。

「どうですか?私たちの施設は運動機器が豊富で、利用者の方々に合わせてリハビリメニューを考えているんです。」案内役のスタッフが笑顔で説明してくれた。佐伯は一度、近くのエアロバイクに目を向け、どこか引き寄せられるように手を伸ばしてみた。自分も昔は毎朝散歩を欠かさず、体力には自信があった。だが、歳を重ねるごとに少しずつ散歩の距離が短くなり、今では家の中での運動が主になってしまっていた。「ここなら、久しぶりに体を動かせそうだな」と思い、少し心が弾むのを感じた。

リハビリルームを一通り見てから、次に案内されたのは、入浴施設だった。広々とした大浴場は、タイル張りで温かな湯気が漂い、清潔な空気に包まれている。スタッフは、「ここでゆっくり湯に浸かってもらえるように、広めのスペースを確保しています。お湯の温度も、季節に応じて調整しているんですよ」と説明してくれた。浴槽は深さが適度に抑えられていて、手すりや座りやすい椅子が配置されており、安全面にも気を配っていることがよくわかる。

湯気の立ち込める浴場を見つめていると、佐伯は遠い昔、まだ家族と一緒に暮らしていた頃の温かい風呂場の記憶が蘇った。家族で過ごす夕方、湯船の中で子どもたちがはしゃぎ、妻が笑顔で見守っていたあの時間。今はもう一人暮らしとなり、自分で沸かす風呂は、どこか物寂しく、何かを欠いたような気持ちになることが多かった。「ここなら、安心して湯に浸かれるなあ」と、佐伯は静かに思った。

次に訪れた談話室では、利用者たちが思い思いに過ごしていた。囲碁に興じる人、新聞をめくる人、さらには手芸を楽しむ人たちもいる。どこかあたたかでのどかな空気が流れていた。スタッフが談笑しながらサポートに回る姿を眺めるうち、佐伯の胸の中にじわりとした暖かさが湧いてきた。「ここに来れば、たまには人と話をすることもできるんだな」と考えながら、彼は小さく頷いた。

案内が一通り終わり、スタッフが一緒に談話室に座り、佐伯に質問した。「どうでしたか、佐伯さん。ここならリハビリもお風呂も、安心して使っていただけるかと思いますが。」

佐伯はしばらくの間、施設を見渡し、言葉を選ぶようにして答えた。「そうだなあ。家にいると、どうしても体を動かすのを忘れてしまうんだ。ここで少しでも運動して、また体力が戻ればいいなって思ったよ。お風呂も…一人で入るのとは違って、なんだか安心できる気がした」

「そう思っていただけるなら何よりです」とスタッフが微笑んだ。「ここで過ごすことで、少しでも日常が楽しく、気持ちよく感じていただけるようにサポートいたしますね」

その言葉に、佐伯の心が静かに温まった。見学を終えた佐伯は、「ここにまた来るのもいいかもしれないな」と思い始めている自分に気がついた。家に戻ると、窓から差し込む夕陽が彼の部屋を照らし、どこか心が晴れやかに感じた。体を動かし、誰かと過ごし、ゆっくりと湯に浸かる──そんな日常が、ここから始まるかもしれないと考えると、不思議と胸が温かくなった。

その夜、佐伯は長らく感じなかった静かな安らぎに包まれて、ぐっすりと眠りについた。







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