老人

70歳の独居老人の朝

70歳の独居老人の朝

70歳の私は、朝の光が薄く差し込む部屋で目を覚ます。今日もまた、冷たい床に足を下ろし、静かに身を起こす。窓の外では、近所の子どもたちの声が響き渡り、元気に遊ぶ姿が見える。彼らの無邪気さに、心の奥で少し羨ましさを感じる。

「今日はお風呂に入ろう」と心に決めるものの、身体が言うことを聞かない。何か特別なことをしなくてはいけないわけではないが、ふと、体を洗う元気がないことに気づく。今まで何度も繰り返してきた日常なのに、今日はどうしてこんなに億劫なのだろう。

お風呂場に足を運び、湯船にお湯を張る。ゆっくりと湯気が立ち上り、心が少し和らぐのを感じる。しかし、体を洗うためのスポンジを手に取った瞬間、再び気持ちが重くなる。手が震え、身体の力が抜けていく。果たして、今日は自分をきれいにする余裕があるのだろうか。

お湯の温かさが心地よく感じる一方で、体を洗うことがどれほど難しいかを思い知らされる。手を伸ばしてスポンジを当てるが、肌に触れる感触が少なく、力を入れられない自分が悲しい。鏡に映る自分の姿は、皺が増え、かつての活力を失った表情をしている。

「こんなことではいけない」と思いながらも、洗うこと自体が辛くなっていく。力を入れられず、ただお湯に浸かっているだけの自分に対する情けなさが募る。周りの若者たちの元気な姿と、自分のこの無気力さが対照的で、心に重い雲がかかる。

それでも、心のどこかで「生きているだけでもいい」と自分に言い聞かせる。老後の生活は決して楽ではないが、こうして生きていることは特別なことなのだと。過去には、何度も夢を追い求め、いくつもの挑戦をしてきた自分がいた。それが今では、ただお湯に浸かることすら難しい。

しばらくそのままの姿勢でぼんやりと湯船に浸かり、周囲の音に耳を傾ける。子どもたちの笑い声、近所の犬の鳴き声、時折聞こえる家族の会話。彼らの生活が自分から遠く離れているように感じられ、どこか寂しさが心に広がる。

お風呂から出る決心をしなければならない。スポンジを放り出し、お湯を流し、体を洗うことはできなかったが、心を少しでも軽くするために浴室を後にする。お風呂に入ったことで、少しでも自分を大切にした気持ちが生まれたような気がした。

「これで良しとしよう」と自分に言い聞かせ、部屋に戻る。部屋の静けさが心を落ち着かせてくれる。自分自身を許すことができれば、また新しい一日を迎えられるのかもしれない。

その日、特に何かを成し遂げたわけではないけれど、生活の中での小さな喜びを見つけることができた。体は思うようには動かないが、それでも生きていることを感謝し、日々の小さな瞬間を大切にしていこうと思う。

「また明日も生きていよう」と心に誓い、私は静かにベッドに身を横たえる。外では子どもたちの声がまだ響いている。彼らの明るい未来を見つめながら、私もまた、自分の人生を大切にしていきたいと願った。