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生きたいと思うことはわがままだろうか? 独居老人の素朴な疑問

生きたいと思うことはわがままだろうか? 独居老人の素朴な疑問

木村茂男は、静かな町の端にある小さな一軒家に一人暮らしていた。彼の家は古びていて、庭には手入れの行き届いていない草が生い茂っている。茂男は76歳。年齢により、体力は衰え、近所との交流も少なくなっていたが、その心の奥底には、まだ生きたいという希望が隠れていた。

ある日の午後、茂男はリビングの窓から外を眺めながら、ひとりで考え事をしていた。窓の外には、青い空と遠くの山々が広がっており、風に揺れる木々の葉が心を落ち着けてくれた。しかし、その平穏な景色の中で、彼の心には一つの疑問がわいてきた。

「生きたいと思うことは、わがままなんだろうか？」

茂男は、この問いがずっと心に引っかかっていた。歳を取るにつれて、周りの人々が次々と亡くなっていく中で、自分だけが生き続けることに対して、時折罪悪感を感じることがあった。彼は長年、自分にとっての「生きる意味」を見つけられずにいたが、それでもやはり「生きたい」という思いが消えなかった。

その日の夕方、茂男は近所の小さな公園を散歩することにした。散歩をしていると、彼は数人の近所の人々と顔を合わせることができた。たいていはお互いに短い挨拶を交わすだけだったが、その日の公園の空気はいつもと少し違っていた。

「木村さん、お久しぶりですね。」と、隣人の佐藤さんが声をかけてきた。

「こんばんは、佐藤さん。」と茂男が答えると、佐藤さんは何やら心配そうな顔をしているように見えた。

「最近、どうされていますか？体調は大丈夫ですか？」

茂男は軽く笑って、「まあ、何とかやっていますよ。」と答えた。実際には、体調が思わしくないこともあったが、それについてはあまり語りたくなかった。

佐藤さんはしばらく黙って考えてから言った。「木村さん、もし何か困ったことがあれば、遠慮せずに相談してくださいね。お互い助け合うのが近所の良さですから。」

その言葉を聞いた茂男は、心の中に温かい感情が広がった。彼は、自分がまだ誰かに必要とされているということに気づき、少しだけ心が軽くなったような気がした。

その夜、茂男は自宅に戻り、薄暗いリビングで再び考えにふけった。彼の心の中では、自分が生きる理由についての疑問が渦巻いていた。生きたいと思うことが、果たしてわがままなのだろうか？それとも、人生における正当な希望なのだろうか？

彼はゆっくりとした呼吸をしながら、窓の外に輝く星々を見上げた。星々は彼にとって、美しく、永遠に感じられる存在だった。茂男は、自分の命もまた、どこかで意味を持っているのではないかと感じ始めていた。

「生きたいと思うことがわがままだなんて、そんなことはないんだろうか。」と、茂男は独り言をつぶやいた。彼の心は少しずつ晴れてきたように感じられた。

そのとき、彼の心にひとつの考えが浮かんだ。それは、彼が自分のために生きることもまた、他者に対しても何らかの形で役立つかもしれないということだった。もしかすると、自分が生き続けることで、誰かの励みになることもあるかもしれない。茂男は、自分の人生に対する考え方が少し変わったことに気づいた。

次の日、茂男はいつもよりも元気に朝の支度をし、庭に出て草むしりを始めた。彼は手を動かしながら、自分がまだ生きることに意味があると信じることができた。自分の思いがどれほど小さなものであろうとも、それが誰かに影響を与えることができるのではないかと、彼は心の底から信じることができた。

茂男にとって、生きることがわがままでないことは、心の中で静かに決意された。彼はこれからも、自分の人生を大切にしながら、小さな幸せを見つけていくことを決めた。そして、自分の生きる理由を見つけることができた、その瞬間に心の平和を感じた。