老人

見知らぬ老人と訴訟リスク

「見知らぬ老人と訴訟リスク」

小学校二年生の息子、翔太が放課後の公園で遊んでいた。私は少し目を離してしまい、ふと気が付くと、見知らぬ老人が彼に話しかけているのを見つけた。心臓が一瞬で凍りついた。最近のニュースで、子供たちが見知らぬ大人に危害を加えられる事件を目にしていたからだ。

「翔太！」私は急いで駆け寄り、老人と息子の間に立った。「何をしているんですか？」

老人は柔和な笑みを浮かべ、「ただの話をしていただけですよ。昔話を聞いてくれて、嬉しかったものでね」と答えた。

それでも私は警戒を解かなかった。訴訟リスクが頭をよぎる。万が一のことがあれば、家庭も社会的な立場も危うくなる。現代社会では、見知らぬ大人が子供に近づくこと自体がリスクだ。

「翔太、帰るよ」と言い、息子の手を引いた。「この人に近づいちゃだめだよ。知らない人だから。」

家に帰る道すがら、翔太が質問してきた。「お母さん、あの人は悪い人なの？」

「悪い人じゃないかもしれないけど、知らない人に話しかけられたら危ないのよ」と言い聞かせた。彼の小さな手が私の手をぎゅっと握り返してくる。

その夜、夫とこの出来事について話した。彼も同意見で、「最近のニュースを見ると、確かに用心するに越したことはない」と言った。

数日後、学校で「防犯教室」が開かれることになった。私も参加し、講師が話すのを聞いた。「知らない人にはついて行かない、話さない。万が一、危険を感じたらすぐに大声を出すこと。」

その後、公園で見かける見知らぬ大人に対する視線はさらに厳しくなった。親たちも同じ思いだったようで、子供たちを遊ばせる場所には自然と親の目が増えた。

ある日、再び公園であの老人を見かけた。彼は一人でベンチに座り、寂しそうな表情を浮かべていた。私の胸にわずかに罪悪感が芽生えたが、再び息子の安全が最優先だと心に決めた。

それでも、彼の寂しげな姿は心に残り続けた。老人もまた、孤独の中で誰かと話すことを求めていたのかもしれない。

社会が進むにつれて、リスク管理の重要性が増している。それでも、見知らぬ老人と子供の間に芽生えた一瞬の交流が、どこか心温まるものであることを否定することはできない。両者を引き離すことが正しいのか、時折考えさせられるのだった。