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春秋花壇

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失敗の連続

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失敗の連続

真夏の暑さがピークを迎える中、70歳の山本節子は一人で暮らすアパートで日々を過ごしていた。年を取るとともに、身体のあちこちに不調を感じることが増えた。特に最近は、尿失禁が大きな悩みとなっていた。

節子は毎朝、少し早めに起きて洗濯機を回すことから一日を始める。下着が不足することが多く、洗濯は日課となっていた。洗濯機の音を聞きながら、彼女はキッチンで簡単な朝食を準備した。

「また今日も洗濯か…」節子は小さなため息をつきながら、自分の状況に嘆いた。しかし、そんなことを嘆いても仕方がないことは分かっていた。年を取るということは、こうした不便や困難を受け入れていくことなのだと、自分に言い聞かせた。

朝食を済ませ、洗濯物を干し終えると、節子は近くのスーパーに出かける準備を始めた。最近は外出するたびに、必ず余分な下着を持ち歩くようにしていた。それでも、一日に何度も失敗することがあるため、常に不足してしまうのが現実だった。

スーパーでの買い物中、節子は何度かトイレに行くために商品棚を行き来した。最近は外出先でのトイレ探しが彼女の重要なミッションとなっていた。頻繁にトイレを探すことができるようになり、買い物にかかる時間が長くなっていたが、これもまた彼女の日常の一部だった。

買い物を終えて帰宅すると、節子は再び洗濯機を回し始めた。下着のストックを増やすためには、毎日洗濯を繰り返さなければならなかった。彼女はそれに慣れてしまっていたが、それでもやはり疲れを感じることが多かった。

午後、節子は趣味の編み物を始めた。編み物は彼女にとって心の安らぎを与えてくれるものであり、日々のストレスを忘れさせてくれる貴重な時間だった。毛糸を指に絡ませながら、節子は自分のペースでゆっくりと作品を作り上げていった。

夕方、節子の娘、由美が訪ねてきた。由美は仕事が忙しい中でも、母親の様子を見に定期的に訪れることを欠かさなかった。

「お母さん、最近どう?」由美は優しい笑顔で問いかけた。

「まあ、変わらないわね。毎日洗濯ばかりしてるけど、元気よ。」節子は微笑みながら答えた。

由美は節子の手を取り、「お母さん、大変なのは分かるけど、無理しないでね。何か手伝えることがあったら言って。」と言った。

「ありがとう、由美。でも、これは自分でやらないとダメなのよ。年を取るってそういうことなんだから。」節子は娘の心遣いに感謝しながらも、自分のペースで生活することの大切さを感じていた。

その夜、節子は再び洗濯物を取り込んでいた。下着の山を見ながら、ふと考えた。何度も失敗することに苛立ちを感じることもあったが、そんな自分を責めても仕方がない。大切なのは、こうした状況の中でどうやって前向きに過ごすかだと悟った。

「失敗は誰にでもあること。大切なのは、それをどう受け入れるか。」節子はそう自分に言い聞かせた。

ベッドに入ると、節子は静かに目を閉じた。今日は一日中動き回り、疲れを感じていたが、それでも心の中には少しの達成感があった。自分のペースで生活し、自分自身を受け入れることができたからだ。

「明日も頑張ろう。」節子はそう呟きながら、深い眠りに落ちた。日々の小さな失敗を乗り越えることで、彼女は自分自身を少しずつ許し、受け入れていくことができるのだ。洗濯物の山を見ながら、節子はこれからも前向きに生きていこうと決意した。








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