老人

春秋花壇

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声を上げ続ける日々

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声を上げ続ける日々

陽一は定年を迎え、四十年以上勤めた会社を退職しました。退職後は、妻と二人で静かな老後を楽しむはずでした。しかし、現実はそう甘くはありませんでした。

ある日、陽一は妻の雅子と一緒に年金受給の手続きを済ませました。数か月後、最初の年金振込が確認できたとき、陽一は驚きと苛立ちを隠せませんでした。年金額が予想よりもはるかに少なかったのです。

「雅子、これは一体どういうことだ?計算が間違っているんじゃないか?」と陽一は訴えました。

雅子はため息をつきながら言いました。「年金から税金が引かれているのよ、陽一。私たちの老後のためにせっせと貯めてきた年金なのに、国はその一部を持っていくなんて、私も信じられないわ」

陽一は納得できませんでした。彼は年金事務所に問い合わせ、税金の詳細を確認しました。担当者から説明を受けた後も、彼の不満は収まりませんでした。

「どうして年金から税金を取るんだ?我々はもう十分に税金を払ってきた。これでは高齢者まで食い物にされているじゃないか!」陽一は憤慨しました。

その夜、陽一は苛立ちを抱えたまま眠りにつきました。しかし、夢の中で彼は若い頃の自分に出会いました。夢の中の陽一は、若き日の自分と対話しました。

「お前は何をそんなに怒っているんだ?」と若い陽一は尋ねました。

「見ろ、国が我々の年金から税金を搾取しているんだ。これでは老後の安定した生活など望めない」と老いた陽一は答えました。

若い陽一は微笑みました。「確かに不公平に感じるかもしれないが、それは全体のバランスを取るためのものだ。お前が若い頃に払った税金も、当時の高齢者のために使われていたんだ。お前が今の若者に対して同じことをしていると思えばどうだ?」

老いた陽一は沈黙しました。その夢は、彼に少しの考え直しをもたらしました。

目覚めた朝、陽一はまだ不満を感じていましたが、少し冷静になっていました。彼は雅子に昨夜の夢を話しました。

「若い頃の自分に会って、少し考えが変わったよ。確かに、我々も若い頃に同じように高齢者を支えてきたんだな」と陽一は言いました。

雅子は微笑みました。「そうね、でもそれでも不公平に感じることはあるわ。だからこそ、私たちが声を上げ続けることが大切なんじゃないかしら?」

陽一は頷きました。「そうだな、雅子。声を上げ続けることが大事だ。でも、その一方で、今の若者たちにも目を向けることが必要だと感じたんだ。彼らも私たちと同じように、いつかは年を取る。その時に、彼らが安心して老後を過ごせるようにするためには、今のシステムを理解し、改善していく必要がある」

その日から、陽一と雅子は地域の高齢者団体に参加し、自分たちの経験や意見を共有する場を持ちました。彼らは同じような不満を抱える仲間たちと共に、より良い社会を作るための活動を始めました。

陽一はその活動を通じて、少しずつ自分の考えを整理していきました。彼はまだ年金からの税金に対して完全に納得しているわけではありませんでしたが、少なくともその理由を理解し、改善のために行動することの重要性を感じていました。

そして、何よりも大切なことは、家族や仲間たちと共に声を上げ続けることでした。陽一と雅子は、自分たちの経験を通じて、未来の世代が安心して老後を迎えられる社会を築くために、今日もまた活動に励んでいます。

そうして、彼らの声は少しずつ広がり、社会全体が高齢者にとっても、若者にとってもより良い場所になるように変わっていきました。陽一はその過程を見守りながら、自分たちがやっていることが無駄ではないと確信し、心の中で安らぎを感じるようになりました。








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