いとなみ

粉雪のように

「粉雪のように」

冬の寒さが身に染みる季節、街は粉雪に包まれていた。雪の粒が静かに舞い降り、夜の街灯に反射して幻想的な光を放っている。その光景を眺めながら、アオイは深いため息をついた。

「雪って、こんなにも切ないんだな…」そう呟くと、冷たい風が彼の頬を撫でた。目の前には彼女、ユウキが歩いている。二人の間には、言葉にしづらい距離感が漂っている。お互いが同じ空の下で過ごしながらも、心の中ではすれ違っているような感覚があった。

「アオイ、何か考えてる？」ユウキが歩み寄り、彼の横に並んだ。

アオイは少しだけ顔を上げ、ユウキを見た。彼女の目には、ほんのりとした不安が浮かんでいる。何も言わずにうなずくと、ユウキは黙って歩き続けた。

「どうして、私たちはいつもこんな風にすれ違うんだろう…」ユウキの言葉に、アオイは少し驚いた。それはまさに、今自分が感じていることそのものだった。

「わかんない。でも、分かり合いたいんだ。君の気持ちが、ちゃんとわかりたい。」アオイはゆっくりと答えた。彼の言葉が空気を少しだけ温かくした。

二人の足音が、雪の上で静かに響く。寒さを感じる度に、二人の間に一層冷たい空気が流れるような気がして、アオイは思わず肩をすくめた。

「でも、どうしても素直になれないんだよね。」ユウキはぽつりと言った。その言葉は、彼女自身の心の奥底にあるものを暴露するような、切ない響きだった。

「僕も、君に対して素直になれないことが多い。」アオイはゆっくりと続けた。自分の胸の中に溜まっている感情を言葉にするのがこんなにも難しいと感じたことはなかった。

二人はしばらく黙って歩き続けた。雪はしんしんと降り続き、二人の間にはあまりにも多くのことが未解決のまま残っているような気がしてならなかった。

その日の夜、二人は静かなカフェに入った。暖かい空気が包み込み、雪の冷たさから解放されると、少しだけ心が落ち着いた。しかし、心の中のもやもやはなかなか消えなかった。

「アオイ、最近どうしてる？」ユウキがテーブル越しに問いかけた。

「うーん、普通だよ。」アオイは曖昧に答えた。

「普通って、どういうこと？」ユウキは眉をひそめて、彼の目をじっと見つめた。その視線がどこか鋭く、アオイは少しだけ息を呑んだ。

「何か、あったんじゃないの？」ユウキは再び質問を投げかける。その言葉に、アオイは深く息を吐いた。

「実は、最近…少しだけ悩んでることがあって。」アオイはようやく本音を口にした。「君にどうしても言えないことがあって、ずっと気持ちを言葉にできなかった。」

ユウキは少しだけ驚いた様子だったが、黙ってアオイの話を待った。

「実は、君が思っているよりもずっと、僕は君を傷つけているんじゃないかと思ってる。」アオイの言葉は、冷たい夜風のように彼女の心に触れた。

「傷つけてる？」ユウキは静かに問い返した。

「うん、君に言えなかったことがいっぱいあった。自分の気持ちを伝えることが怖かったんだ。」アオイは心の奥に隠していた感情を、ゆっくりと吐き出していった。

ユウキはしばらく黙っていたが、その後、小さくうなずいた。

「私も、君に言えなかったことがある。でも、それでも一緒にいたいって思ってる。」ユウキは目を合わせて、静かに言った。その言葉は、アオイの心の中に温かい光を灯した。

それからしばらくの間、二人はお互いに気持ちを伝えることができずにいた。雪は舞い続け、街の灯りがぼんやりと輝く中、二人はいつも通りの距離を保ちながら過ごしていた。しかし、心の中では少しずつ変化があった。

ある日のこと、アオイはふとユウキに言った。

「ねえ、雪が降ると、なんだか気持ちが不安定になる。」彼の言葉に、ユウキは静かに頷いた。

「うん、わかる。でも、雪のように静かな気持ちで、いつかお互いのことをちゃんと理解できたらいいなと思う。」ユウキは、アオイの目をじっと見つめて言った。

その瞬間、アオイは彼女の手を取った。そして、握りしめた手の温かさを感じながら、彼は改めて心の中で誓った。

「君を、守り続けるよ。」

ユウキは微笑んだ。

「私も、君のことを守りたい。」

雪が降り積もる季節、二人は少しずつ、お互いの気持ちを紡ぎながら歩き続ける。粉雪のように、優しくて儚いけれど、確かなものを感じながら。

そして、いつかその雪が解けたとき、二人の心はどこまでも暖かく、繋がりあっていることだろう。