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冬桜の館

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冬桜の館

12月16日。冷たい冬の朝。霜月を越え、雪の季節が始まろうとしていた。村のはずれにある古びた館は、村人たちから「冬桜の館」と呼ばれ、静かに佇んでいる。その名前の由来は、館の裏庭にある一本の冬木だった。冬の寒さの中、毎年不思議なことに薄紅色の花を咲かせる。その光景は美しい反面、どこか不吉さを帯びていると村人たちは囁いた。

ある年、若い女性がこの館に訪れた。彼女の名はアリシア。亡き父が残した手紙を頼りに、館を訪ねたのだ。父の手紙にはこう記されていた。

「アリシア、この館を訪ね、裏庭の冬桜を探しなさい。そこに、お前の知りたい答えが眠っている。」

アリシアは赤いカーディガンを羽織り、旅の寒さをしのぐための膝掛を手に館の扉を押した。扉は意外なほど軽く開き、彼女はそこに足を踏み入れた。

冬座敷と落葉の記憶

館の内部はひどく荒れていた。廊下には落葉が散らばり、吹き込む風がそれをさらっていく。アリシアは慎重に歩を進めると、一つの部屋の扉が開け放たれているのに気付いた。

「冬座敷……?」

その部屋には暖炉があり、今にも人が座っていそうな気配が漂っていた。古びた椅子の上には、ポインセチアの刺繍が施された膝掛が置かれている。誰かがこの部屋で過ごしていたのだろうか? アリシアは不安を感じながらも、その膝掛を手に取った。すると、不思議な温もりが手に伝わった。

その瞬間、頭の中に映像が浮かんだ。
雪の中、若い女性が裏庭の冬桜の下に立っている。彼女のそばには一人の男性がいた。二人は見つめ合いながら、何かを語り合っているようだった。しかし、映像はそこで途切れ、暖炉の火が消えたかのように冷たさが彼女の周囲を包んだ。

裏庭の冬桜

アリシアは手紙の言葉を思い出し、裏庭へと向かうことにした。館を抜けると、目の前には広がる枯野。そしてその中に立つ一本の冬木。雪が舞い降りる中、その木は薄紅色の花をつけていた。

「これが……冬桜。」

近づくと、足元に何かが埋もれているのに気付いた。それは、古びた金のロケットだった。拾い上げて開くと、中には父が若い頃に撮られた写真と、一人の女性の肖像画が収められていた。アリシアの心臓が大きく鼓動する。

「この女性は……誰?」

その瞬間、背後から冷たい声が響いた。
「彼女はこの館の主だったのよ。」

振り返ると、そこには赤いドレスをまとった女性が立っていた。彼女は微笑んでいたが、その目には深い悲しみが宿っている。

真実の刈田

アリシアが言葉を失っていると、女性はゆっくりと語り始めた。
「私はこの館で彼と暮らしていたわ。彼は農夫で、刈田から帰るといつも私にこの木の下で歌を聞かせてくれた。」

女性は冬桜の花を一枚そっと摘み取ると、アリシアに手渡した。
「でも、彼は裏切ったの。」

彼女の声が低くなると、館全体が冷気に包まれたように感じた。アリシアは問いかけた。
「裏切った……? 父が関係しているのですか?」

女性は悲しげに微笑んだ。
「そう。彼はあなたの父。彼は私を愛していると言いながら、この館を出ていった。そして、二度と戻らなかった。」

アリシアは言葉を失った。父の手紙には、罪の意識がにじんでいた。真実を知るようにと言われたが、これほどの悲しみが絡んでいるとは想像していなかった。

再生の冬桜

「あなたがここに来たということは、何かを変えようとしているのね。」
女性は膝掛を指差し、アリシアに手渡した。
「これを、私の代わりに捧げてちょうだい。」

アリシアはそれを受け取り、冬桜の下に膝掛を広げた。その瞬間、雪が止み、冬木の花が一斉に舞い散った。花びらは風に乗り、館の上空へと消えていった。

気がつくと、女性の姿は消えていた。しかし、アリシアは確かに感じていた。館に満ちていた重苦しい気配が、どこかへ消え去ったことを。

手紙を握りしめ、アリシアは呟いた。
「お父さん、あなたが残した罪を、少しは償えたかしら。」

村に戻ると、館が少しずつ崩れ始めているのが見えた。やがて、館の跡地には一本の冬桜だけが残り、誰もがそれを見てこう言った。

「もう、館の呪いは消えたんだ。」

その後、アリシアは二度と村を訪れることはなかったが、村人たちは語り継いだ。冬桜の花が咲く日は、館の罪が許される日なのだと。






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