いとなみ

真冬の帰り道

『真冬の帰り道』

第一章：冷たい風の夜
真冬の夜、凍てつく風が街中を吹き抜ける中、沙織（さおり）は駅前のバス停で一人佇んでいた。吐く息が白くなるほど寒いが、バスはまだ来ない。

「こんな日に限って遅れるなんて…」

沙織はマフラーをぎゅっと巻き直し、携帯電話の画面を確認した。恋人の翔太（しょうた）に「仕事が終わったら迎えに来てほしい」と頼もうとしたが、送る前にためらった。翔太は仕事が忙しい。頼るのは気が引ける。

その時、背後から聞き覚えのある声がした。

「沙織？ここで何してるの？」

振り向くと、そこにはコートの襟を立てた翔太が立っていた。

「翔太…どうして？」

「なんとなく嫌な予感がしてさ。寒いから送っていこうと思って。」

沙織の心が温かくなった。翔太は不器用だが、こういう時に彼の優しさが染み渡る。

第二章：歩き出す二人
バスが来る気配がないので、二人は歩いて帰ることにした。翔太が沙織の手を取ると、その温もりが伝わってきた。

「寒くない？手、冷たいな。」

翔太は沙織の手を自分のポケットに入れた。彼の温もりが冷えた指先に広がり、沙織は思わず微笑んだ。

「こういうの、久しぶりだね。」

沙織が呟くと、翔太は少し照れたように笑った。

「最近、仕事ばかりで余裕がなかったけど…今日は君の顔が見たかったんだ。」

冷たい風が吹く中でも、二人の間だけは暖かな空気が流れていた。

第三章：寄り道
途中、二人は小さな公園に立ち寄った。広場には誰もおらず、白い街灯が雪で薄っすらと覆われたベンチを照らしていた。

「ちょっと休憩しよう。」

翔太がベンチに腰掛けると、沙織も隣に座った。

「覚えてる？ここ、初めてデートした時に来た場所だよね。」

沙織の言葉に翔太は頷いた。

「あの時も冬だったよな。君が寒い寒いって文句ばかり言ってさ。」

「だって、本当に寒かったんだもの。」

二人は笑い合いながら、過去の思い出を語った。その時、翔太がカバンから小さな紙袋を取り出した。

「実は、これを渡したくて迎えに来たんだ。」

中には、小さな手編みの手袋が入っていた。

「仕事の合間に作ったんだ。君に似合う色を選んだつもりだけど、どうかな？」

沙織は驚きと嬉しさで胸がいっぱいになった。

「翔太、こんな忙しいのに…ありがとう。」

翔太が手袋をはめてくれると、沙織の手はこれまで以上に温かくなった。

第四章：真冬の空
空を見上げると、満天の星が輝いていた。

「こんなに星が綺麗だなんて、気づかなかった。」

沙織が呟くと、翔太は優しく答えた。

「寒いからこそ、空気が澄んで星が綺麗に見えるんだ。なんだか人生みたいだよな。」

「どういう意味？」

「辛い時ほど、大切なものが見えてくるってことさ。」

翔太の言葉に、沙織は静かに頷いた。忙しい日々の中で忘れかけていた彼との時間が、今のこの瞬間に取り戻された気がした。

エピローグ
二人は再び歩き出した。冷たい風も、雪の積もる帰り道も、もう怖くない。

「これからも、こうして一緒に帰れるかな。」

沙織が言うと、翔太は少し笑って答えた。

「もちろん。そのために、仕事も頑張るよ。」

真冬の帰り道は、二人の未来を明るく照らす時間になった。

終わり