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春秋花壇

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高校最後の冬

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『高校最後の冬』

18歳の冬、受験を控えた忙しい日々の中で、ふとした瞬間に心が温かくなるような出来事があった。それは、図書館での勉強帰りに起きた、何でもないようで大切な出来事だった。

その日も、私は図書館で英語の参考書を広げていた。周りの人たちも、同じように受験を控えた高3の生徒たちだろう。誰もが真剣に勉強している。でも、私の心はどこか落ち着かない。受験のプレッシャーに押しつぶされそうになりながらも、隣で静かに勉強している彼の存在に、どこか安心していた。

「雪音、そろそろ行こうか?」

彼の声で、私はハッと顔を上げた。隣に座っていた彼、悠斗(ゆうと)はいつものように少し眠たげな顔をして、でも優しさがにじみ出ている。彼も受験生だが、どこか余裕のある顔をしている。そんな悠斗に、私は安心感を覚えながらも、同時に少し羨ましい気持ちも抱えていた。

「うん、もう少しだけ勉強しようと思ったけど、頭が痛くなってきたし、帰ろうか。」

私たちは図書館を後にし、外に出ると、冷たい冬の風が頬を刺すように感じた。二人並んで歩くその道は、いつもの帰り道。静かな夜の街並みに、街灯が黄色く光り、足音だけが響く。

「受験、どう?」悠斗がふと、私に聞いてきた。

「うーん、なんか気が重いけど、あと少しだし、やるしかないよね。」

「そっか…でも、俺も頑張ってるし、お前も絶対できるよ。」悠斗はにっこりと笑って、私の肩を軽く叩いてくれる。

その言葉に、少し勇気づけられた私は、自然と顔をほころばせた。

「ありがとう、悠斗。」

「じゃあ、うちでインスタントラーメンでも作って食べようか。腹減ったし。」悠斗が突然、提案してきた。

「え?ラーメン?」私は少し驚きながらも、頷いた。「いいよ。何か食べたかったし。」

「よし、じゃあ行こう。」悠斗は嬉しそうに言いながら、私を家に誘った。

悠斗の家は私の家から少し歩いたところにある。彼の家は、静かな住宅街にある二階建ての一軒家で、いつも彼の家に行くと、落ち着いた気持ちになれる。家に着くと、悠斗はさっさとキッチンに向かい、ラーメンの準備を始めた。

「インスタントラーメンって、意外といいよな。」悠斗が言いながら、ラーメンの袋を開ける。

「うん、簡単だけど、美味しいもん。」私は返しながら、彼の後ろで見守っていた。

悠斗は調理を始めると、いつものように素早く動き、野菜を切り始めた。人参、ピーマン、アスパラ、ねぎ、もやし。たくさんの野菜を切って、ラーメンにふんだんに盛りつけていく。

「うわー、すごい。野菜いっぱいだね。」私は驚いて言う。

「だって、野菜があると栄養取れるし、見た目もいいじゃん。」悠斗は笑いながら、ラーメンの鍋に野菜を投入した。

その時、台所に漂う香りに、私は自然とお腹が鳴るのを感じた。

「うん、いい匂い。」私はつい、つぶやく。

そして、悠斗がラーメンを完成させて、二人でテーブルに座った。彼は、ラーメンを一口すすってから、にっこりと笑った。

「うめー。」

その声が、まるでヤギみたいで、私は思わず大笑いしてしまった。

「え、何?」悠斗は顔を赤くして、照れくさそうに言った。

「だって、ヤギみたいな声出してるよ!」私は声を上げて笑いながら言った。

悠斗も、照れながら笑って、「お前、意地悪だな。」と言ったけれど、どこか嬉しそうな顔をしている。

「でも、ほんとに美味しいよ。」私はスープを一口飲んで言った。「なんか、温まるな。」

「それが俺の狙いだよ。」悠斗は笑いながら言った。

ラーメンを食べ終わった後、私たちはしばらくおしゃべりをして過ごした。受験のこと、将来のこと、そして何気ない日常のこと。冬の夜、外は冷えているけれど、彼と一緒にいると、なんだか温かく感じる。

「雪音、あと少しで受験だな。」悠斗が静かに言った。

「うん、そうだね。」私は少し顔を曇らせながら答える。「正直、ちょっと怖いけど。」

「俺もだよ。」悠斗は優しく微笑んで、私の手を握った。「でも、俺たちは絶対できるよ。頑張ってきたし、後悔しないようにやり切ろう。」

その言葉に、私は心から安心した。悠斗と一緒にいると、どんなに辛くても、怖くても、前を向いて頑張れる気がした。

「ありがとう、悠斗。」私は彼を見つめながら、心から言った。

「いつでも応援してるから。」悠斗は照れたように笑って、私の手をしっかりと握り返してくれた。

その瞬間、私は確信した。どんなに大変でも、どんなに辛くても、彼と一緒なら乗り越えられる。受験も、これから先の人生も、きっと彼と一緒に乗り越えていける。

高校最後の冬。試験が終わった後、二人で笑い合える日を夢見ながら、私はまた一歩、前に進んでいくのだった。
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