いとなみ

春秋花壇

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彼が買ってくれたたい焼き

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『彼が買ってくれたたい焼き』

17歳の冬、初めてのデートに胸が高鳴る一方で、心の中は少し緊張していた。だって、これはただのデートじゃない。ずっと憧れていた彼と一緒に過ごす、かけがえのない一日。彼の名前は拓海(たくみ)。学校ではちょっとクールで、でもどこか優しさを感じさせるところがあって、私は彼のことがずっと好きだった。

「お、来た来た。」

待ち合わせ場所で少し早く着いた私は、周りをキョロキョロと見回していた。すると、背が高くてすっきりした髪の毛を持つ拓海が、遠くから手を振って歩いてきた。彼の顔を見た瞬間、胸がぎゅっと締めつけられるような気がした。私は思わず口元を隠して笑ってしまった。

「お待たせ、雪音(ゆきね)。」

拓海はいつもと変わらぬ、自然な笑顔で私に声をかけてくれた。ああ、やっぱりこの笑顔に弱い。私は恥ずかしさを隠しきれず、ふわっと笑って答える。

「全然、待ってないよ。じゃあ、行こうか。」

二人で歩き始めると、冷たい風が私の頬をかすめ、寒さを感じる。でも、拓海と一緒にいると、どこか温かさを感じるから不思議だった。

「どこ行きたい?」拓海が聞いてくれる。

「うーん、どこでもいいけど…あ、たい焼き食べたい。」

私が言った途端、拓海は少し驚いた顔をしてから、すぐににっこりと微笑んだ。

「たい焼きか。いいね。じゃあ、行こうか。」

私たちは、近くの小さな露店に向かって歩き出した。そこには、手作りのたい焼きが温かい湯気を立てて並んでいた。小さな店の前に並ぶ人々は、皆寒さをしのぎながらも、笑顔を浮かべてそのたい焼きを楽しんでいる。拓海が並んでいる間、私はその光景をぼんやりと眺めていた。

「はい、どうぞ。」拓海が微笑みながら、たい焼きを手渡してくれた。その手から伝わる温もりに、私は思わず頬を緩める。

「ありがとう。」私は大切にたい焼きを受け取り、彼と一緒に歩きながらその温かさを感じた。

たい焼きの皮はパリッとした香ばしい感じで、でも中身のあんこはしっかりと甘さが広がっていて、心も体も温かくなる。湯気がふわっと上がって、ほわほわとした香りが漂っている。

「おいしいねー。」私は無意識に声を漏らして、たい焼きを頬張った。すると、拓海が少し驚いた顔をして、そして少し照れたように笑った。

「うん、いい感じだよね。」

その言葉に、私は思わず笑顔になる。そして、またたい焼きをかじりながら、ふと彼の顔を見る。拓海の瞳は少し遠くを見ているけれど、私と歩くその横顔が、どこか少し優しく見えた。

「ねぇ、拓海…」私は小さな声で話しかける。

「うん?」

「こんなに美味しいたい焼きを一緒に食べられるなんて、なんかすごく幸せだなって思う。」

拓海は少しだけ驚いた顔をして、でもすぐに照れくさそうに笑った。

「俺も、雪音と一緒にいると、なんか心が温かくなるよ。」

その言葉を聞いて、私は急にドキドキしてきた。拓海が私と一緒にいると温かいって…それはどういう意味なんだろう。私の顔が、急に熱くなったような気がした。耳まで赤くなっているのが分かる。拓海は、そんな私の顔に気づかないふりをして、たい焼きを食べるふりをしている。

でも、私の心はどんどん速く鼓動を打って、まるで足元が浮いているみたいな気分だった。

「拓海、今日はほんとうにありがとう。」私は気持ちを込めて、思わずその言葉を口にした。

拓海は少し驚いた顔をしたけれど、すぐにまた笑って言った。「何、急に。お前、さっきからありがとうばっかり言ってるじゃん。」

「だって、本当に嬉しいんだもん。」私は頬を赤くしながら、無意識に手を握る。

拓海はその手を少しだけ握り返してくれた。小さな手だけれど、その温もりが私を包んで、私は幸せな気持ちでいっぱいになった。

「雪音…」拓海は少し言いにくそうに、でも真剣な顔で私を見つめて言った。「俺、雪音のことが好きだよ。」

その言葉に、私は息を呑んだ。耳の奥で鼓動が鳴り響き、心臓が早鐘のように打ち始める。私も、拓海のことが好きだった。でも、こんなにまっすぐに告白されるなんて、思ってもみなかった。

「拓海…私も、好き。」私は少し恥ずかしそうに言った。

拓海はその言葉を聞いて、嬉しそうに微笑みながら、私の手をしっかりと握り返してくれた。

「ありがとう、雪音。」

その瞬間、私は自分の心の中に温かい何かが広がるのを感じた。たい焼きの甘さも、拓海の言葉も、冬の寒さを忘れさせてくれる。手を繋いだままで、二人で歩くその道が、これから先の未来へと続いていくような気がして、私は思わず涙が出そうになった。

「ずっと、こうして一緒にいられたらいいな。」私はそっと言った。

拓海はゆっくりと頷いて、穏やかな笑顔を見せてくれた。

「もちろんだよ。」

その言葉が、私の胸にしっかりと響いた。
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