いとなみ

澪の初めての気持ち

澪の初めての気持ち

澪（みお）は、13歳の中学生。最近、どうにも自分の気持ちがよくわからなくなっていた。毎日、何も変わらないはずなのに、心の中に新しい感覚が芽生えてきていた。それは、胸の奥がドキドキして、顔が熱くなるような、ちょっと不思議な感覚だった。

今日も、いつも通り学校が終わり、部活の後に図書室に向かっていた。その日は、少し早めに終わったため、誰もいない静かな空間が広がっていた。澪は一番奥の席に腰を下ろし、いつも通り本を開こうとしたその時だった。

「澪ちゃん、ちょっといい？」

突然、先輩の美咲（みさき）が声をかけてきた。美咲先輩は、高校生になったばかりの明るい女の子で、澪の部活の先輩だった。いつも笑顔で優しくて、誰とでもすぐに打ち解けるタイプの人だった。澪も、美咲先輩のことが好きだったし、憧れていた。

「は、はい！」澪は急に声をかけられて、少し驚いた。

美咲先輩は、にっこりと微笑んでから言った。「一緒にお茶しない？ちょうど休み時間だし。」

「お、お茶ですか？」澪は心の中で驚きながらも、つい頷いてしまった。美咲先輩に誘われるなんて、ちょっと信じられないことだった。

二人は、近くのカフェテリアに向かった。澪は少し緊張していたが、美咲先輩がリラックスしているので、なんとなくその空気に引き込まれていった。テーブルに座ると、美咲先輩が笑いながら話し始めた。

「澪ちゃん、最近どう？元気にしてる？」

澪は照れくさそうに答えた。「はい、元気です。でも、なんか最近、変な感じがして…。」

「変な感じ？」美咲先輩が少し驚いたように眉を上げた。

澪は顔を赤くして、思わず目をそらした。「なんだか、先輩たちを見ていると、胸がドキドキして、顔が赤くなっちゃうんです…。」

その言葉が口をついて出てしまった瞬間、澪は自分でも驚いた。まさか、こんなことを美咲先輩に話すなんて。澪は恥ずかしさで顔を覆いたくなった。

美咲先輩は、少し考え込んでから、優しく微笑んだ。「澪ちゃん、それって、もしかして…恋してるってことじゃない？」

「え？」澪は目を見開いた。恋？そんなことあるわけない、と思いながらも、胸の中で何かがきゅっとなった。「私が…恋？」

美咲先輩は頷きながら言った。「そう、恋だよ。自分でも気づかないうちに、誰かに惹かれているんだと思う。そういう気持ちって、初めは戸惑うけど、ちゃんと感じるものだから。」

澪はその言葉に驚きと戸惑いを感じながら、じっと黙っていた。これが恋だなんて、信じられなかった。しかし、美咲先輩の言葉には、どこか安心感があった。どうしてだろう、澪は少しだけ心が落ち着いてきたような気がした。

「でも、誰に？」澪は思わず呟いた。

美咲先輩は、少し笑ってから答えた。「それは、澪ちゃんが自分で感じるものだから、まだわからないかもしれないけれど、少しずつ気づいていくんだよ。」

その後、美咲先輩と一緒にお茶をしながら、澪は少しずつ自分の心の中で湧き上がる感情に気づき始めた。確かに、最近先輩たちと話している時、何だか胸が高鳴ることが多かった。特に、部活でいつも一緒に練習している真田先輩が、いつも以上に気になるようになっていた。

真田先輩は、背が高くて、優しくて、みんなに頼りにされている存在だ。澪も、その真田先輩のことを尊敬していたし、時々彼の視線が自分に向けられると、心臓がドキドキして、顔が赤くなってしまうことがあった。でも、それが何なのかは、はっきりとはわからなかった。

「先輩、真田先輩のこと…ですか？」澪は、恥ずかしそうに尋ねてみた。

美咲先輩は、にっこりと微笑みながら言った。「それが、恋ってものだよ。自分の気持ちを素直に感じて、少しずつその気持ちが大きくなっていく。それが、恋というものなんだと思うよ。」

その言葉が、澪の心に深く響いた。確かに、最近の自分は真田先輩を意識していることが多かった。彼の優しい笑顔や、ちょっとした気遣いに、何度も胸がドキドキした。それが、恋だと言われると、まるで心の中の何かが開かれたような気がした。

「でも、どうしたらいいんだろう…。」澪は、少し困ったように言った。

美咲先輩は、少し考えてから答えた。「焦らなくていいんだよ。まずは自分の気持ちを大切にして、その気持ちに素直になればいい。恋って、無理に進めようとするものじゃないから。」

澪はその言葉に頷きながら、自分の中で新しい気持ちを受け入れようと決心した。もしかしたら、これが初めての恋かもしれない。そして、その気持ちがどこに向かっていくのか、少しだけ楽しみになった。

美咲先輩と別れた後、澪は一人で帰り道を歩きながら、心の中でじっと自分の気持ちを確かめた。最近、胸がドキドキするのは、きっと恋をしているからだ。そして、これからどんな気持ちが芽生えるのか、少しだけワクワクしていた。

澪は、まだ13歳だったけれど、初めての恋に胸を躍らせながら、静かな夕暮れの中で自分の気持ちを噛み締めていた。