いとなみ

再び、会いにゆきます

『再び、会いにゆきます』

雨の季節、梅雨の間に、巧は今もなお、妻・澪を深く想い続けていた。澪は数年前に病で亡くなった。だが、巧の心の中では、未だに彼女の温もりが感じられる気がしてならない。澪との思い出を大切にしながら、彼は息子・佑司と一緒に日々を過ごしていた。

ある晩、澪の誕生日の前日。巧は目を覚ましたとき、何もかもが静かだった。目の前の窓には、霧がかかり、空気はひんやりとしている。外では、激しく降る雨が街を包み込んでいた。しかし、何もかもが通常通りであるはずのこの夜、巧の耳に小さな足音が聞こえた。

「おかえりなさい。」

その声を聞いた瞬間、巧はすぐに振り向いた。そこには、確かに澪が立っていた。目を疑ったが、澪の微笑みとその存在は、紛れもなくかつて愛した妻だった。

「澪...？どうして...」

「巧、ごめんなさい。でも、私はここに戻ってきたの。」

澪は無理に笑顔を作らず、ただ優しく彼の目を見つめていた。雨が窓を叩きつける音と一緒に、彼女の声が静かに響く。

巧は涙がこぼれそうになった。どれだけ澪を思い、待ち続けてきたことか。それでも、心のどこかで彼女を再び会える日を信じていた。

「澪、でも...どうして今、再び...？」

澪は静かに言った。「私はもう一度、あなたと息子と一緒に過ごすために戻ってきた。でも、これはあくまで最後の時間。あなたが私を忘れないように、そして、二人の幸せな思い出を大切にしてくれることを願ってる。」

その言葉に、巧の胸は締め付けられた。心の中で何度も願った再会が、こんな形で訪れるとは思ってもみなかった。しかし、澪の願いを無視することはできなかった。

「もう一度、一緒に過ごしてくれるのか？」

「はい、でもあまり時間がないの。」澪はしばらく黙った後、穏やかな声で続けた。「次の雨の季節が終わる前に、私はまたどこかへ行かなくてはならない。だけど、その前に私の最期の願いを叶えてほしい。」

巧はすぐにその願いを聞く覚悟を決めた。「何でもする。君の願いを叶えさせてくれ。」

澪の最期の願い。それは、巧が彼女と一緒に過ごしたいと思う最も大切な瞬間だった。限られた時間の中で、彼は今度こそ、澪と真心を込めて最後の思い出を作ろうと決意する。