いとなみ

忘れられない夏の約束

「忘れられない夏の約束」

四国の小さな町に住む真琴と蓮は、まるで運命に導かれたように出会った。二人は高校の同級生で、互いに抱えた悩みや秘密を共有しながら、ひたむきに友情を育んできた。しかし、彼女が病気であることを知ったのは、それからしばらくしてからだった。

蓮は真琴のことを、ただの友達だと思っていた。でも、彼女が病院に通う日々が続くうちに、どこかで彼女を失いたくないという強い思いが芽生え始めていた。

「蓮、私、まだやりたいことがあるんだ。」

ある日、真琴がぽつりと漏らした言葉に、蓮は心が震えた。彼女の目に映る未来は、もう長くはないことを蓮は知っていたから。

「なにを？」蓮は少し躊躇しながら尋ねた。

真琴は薄く笑って、ポケットから一枚のチケットを取り出した。それは、遠く離れた町にある美しい海へと行くための、電車のチケットだった。

「私、あの海を見てみたい。病気がわかる前から、ずっと行きたかったんだ。」

その瞬間、蓮は決意した。たとえそれがどんなに無謀でも、彼女をその海へ連れて行くと心に誓った。彼女の目に映る最後の夏を、どうしても忘れられない思い出にしたかった。

そして、二人は数日後、列車に揺られながらその海へ向かった。途中、蓮は何度も真琴に微笑みかけながら、心の中で彼女にできる限りの幸せを届けようと誓った。

海に着くと、真琴は目を輝かせながらその美しい景色に見入った。波の音が二人を包み込み、夕日の光が海面に反射して、まるで天国のように見えた。

「蓮、ありがとう。こんな素敵な景色、ずっと見たかった。」

その言葉に、蓮は言葉を失った。ただ真琴が微笑む姿を見ているだけで、胸がいっぱいになった。

彼女は、病気にかかってからはずっと無口で、たまに見せる笑顔も、どこか諦めの色が漂っていた。しかし、この瞬間だけは、彼女が何も知らない時のように、輝いて見えた。

その夜、二人は海辺の小さなホテルに泊まり、星空の下で話し続けた。真琴は、少しだけ過去の話をした。大切な人に伝えたかったこと、やりたかったこと、そして、蓮に伝えたかった気持ちを。

「蓮、私ね、幸せだったよ。こんなにも、心が温かいと思うのは初めてだった。」

その言葉に、蓮はただうなずくことしかできなかった。胸が締め付けられるように痛んだが、それでも彼女が幸せでいることが、何よりも大切だと感じた。

その翌日、真琴は静かに目を閉じた。病院で見た無機質な白い部屋ではなく、蓮と共に過ごした海辺の町で、彼女は静かに息を引き取った。

蓮は、最後の約束を守った。彼女の最期を、思い出と共に心に刻むために。もう二度と戻らない時間を、二人の愛と共に永遠に大切にしようと、心に誓った。

そして、その後も蓮は生きていた。真琴と過ごした日々が、彼の人生の中で最も宝物になったからだ。彼女が残した言葉、「幸せだったよ」という言葉を、これからも胸に抱きながら。