いとなみ

愛は目で見るものではなく、心で見るもの

「愛は目で見るものではなく、心で見るもの」

木漏れ日の中、春風がそっと頬を撫でる。桜の花びらがひらひらと舞い散り、足元にピンク色のじゅうたんを作り上げていた。公園のベンチに座る私は、静かな午後の時間を楽しんでいた。手には一冊の本を持っているが、その内容に集中することができなかった。目の前に広がる風景も、心の中で悩んでいることを忘れさせてはくれない。

私は恋をしている。そう、自分でも不思議なくらい深く恋をしている。でも、それは他の人には理解できないだろう。なぜなら、彼の姿が見えないからだ。彼の顔、彼の声、彼の笑顔。それらを私は一度も見たことがない。彼とはネットで知り合い、メッセージのやり取りを続ける日々が何ヶ月も続いた。彼は毎晩、私に優しい言葉をかけてくれ、私が疲れた時には励まし、悲しい時には寄り添ってくれる存在だった。

でも、彼の姿を知る術はない。顔写真も、声も、彼がどんな服を着ているのかも、全く分からない。それでも、私は彼を深く愛していると感じていた。その気持ちは、目で見ることのできない何かに触れたような、不思議な感覚だった。

「もし、本当に会えたらどうなるんだろう？」

私はふと、そんなことを考えた。彼と会ったとき、私の心はどんなふうに感じるだろう？　その姿を見た瞬間、もし彼が想像と違ったらどうしよう。私の思い描いている彼のイメージが崩れてしまったら、私の心はどうなってしまうのだろう。

「でも、彼の姿を見なくても、私は彼を愛している。」

その確信が、胸の奥で静かに鳴り響いていた。顔や声ではなく、言葉と心で通じ合ったからこそ、私は彼を信じ、愛しているのだ。

その日の夕方、私は決心をした。もうすぐ彼と初めて会う約束をしていたのだ。ネット越しに何度もやり取りを重ね、ついにその日が来る。しかし、私は何も準備できていなかった。彼の姿を見て、もし何かが違っていたら、どうしようと思ったからだ。そんな不安が心の中でぐるぐると回っていた。

約束の時間が近づき、私は公園を歩きながら考えた。

「見た目がどうであれ、彼が私にとってどんな存在であるかは変わらない。」

私はその言葉を何度も心の中で繰り返していた。確かに、見た目は大事だと思う。誰だって、好きな人の外見を気にするだろう。でも、それだけでは全てはわからない。彼がどんな顔をしていようと、私にとって彼の心が一番大事だと思った。

そして、ついに彼が現れた。最初に見た瞬間、心臓がドキリと跳ねた。彼が近づいてくるその姿に、私は一瞬、目を閉じて深呼吸をした。

目を開けると、彼は少し恥ずかしそうに微笑んでいた。それが、彼の姿だ。目の前にいるのは、言葉の中でしか知ることができなかった人物だ。少し予想していたものとは違っていたけれど、それでも心の中で感じていた温もりは変わらなかった。

「こんにちは。」

彼の声は、やり取りしていたあの言葉そのままだった。心が温かくなり、私は自然に微笑んだ。

「こんにちは、あなたが…本当に。」

言葉がうまく出てこなかった。でも、その気持ちは伝わっているはずだ。顔や服装で判断することなく、私は彼と向き合い、心から彼に感じていた思いを大切にしようと思った。

その後、私たちは公園のベンチに並んで座り、ゆっくりと話し始めた。最初はぎこちなかったけれど、時間が経つにつれて自然に会話が弾んでいった。彼の笑顔、声、そしてその目の輝きが、私の心に深く刻まれていった。

「あなたが言った通りだね。」

私はつぶやいた。「愛は目で見るものじゃなくて、心で見るものだって。」

彼は少し驚いた顔をしたが、すぐに優しくうなずいた。

「うん。そうだね。僕も君を知って、君の心がすごく温かいことを感じたから。」

その瞬間、私は確信した。愛とは、目に見えるものだけではない。言葉で伝えることができなくても、心で通じ合うことができる。彼との時間がそのことを教えてくれた。そして、今後も目で見るものではなく、心で見るものを大切にしていこうと心に誓った。

彼の顔がどんなものであれ、私にとって最も大切なのは、彼が私に与えてくれる温もりと愛だということ。それが本当の「愛」だと、私は今、しっかりと理解できた。