いとなみ

最後の手紙

「最後の手紙」

ある寒い冬の日、彼女は静かに部屋の隅に座っていた。窓の外では雪が舞い降り、街を白く染めていく。時計の針が刻々と進み、気づけばもうすぐ彼との約束の時間だった。

彼の名前は拓海。出会った頃、彼はいつも自信に満ち溢れていて、どんな困難にも立ち向かっていく強さを持っていた。それに比べて、私はどこか弱くて、少し臆病だった。けれど、そんな私を彼はいつも優しく包み込んでくれた。彼の笑顔、手のひらの温かさ、目を見つめると心が穏やかになった。

でも、彼の病気がわかった時から、全てが変わった。

最初は軽い風邪だろうと思っていた。けれど、彼の体調はどんどん悪化していった。病院に行き、検査を受け、結果が出た時、私の心は凍りついた。彼は、もう長くは生きられないと告げられた。治療法はない。手を尽くしても、命の期限は決まっている。

その知らせを受けてから、私は彼と過ごす時間を大切にしようと決めた。毎日、何気ない会話を交わし、笑い合い、時には涙を流した。彼のために作った料理を一緒に食べ、少しでも楽しい時間を過ごすことだけが、私の心を支えていた。

「愛してるよ、ずっと。」

彼はよくそう言ってくれた。その言葉に答えることができないまま、私はただ微笑んでいた。だって、私は彼を失いたくなかったから。

そして、ある晩、拓海が言った。

「最後に、お願いがあるんだ。」

その言葉に私は驚いた。彼はいつも強くて、何でも一人で背負おうとする人だった。それなのに、今、何かをお願いしてきた。

「何でも言って、拓海。」

彼は少しだけ目を閉じ、深呼吸をした。息を吐きながら、彼はゆっくりと話し始めた。

「僕がいなくなった後、君がどんな風に過ごしているのか、心配なんだ。だから、君が笑っているのを見たい。君が幸せでいてほしい。僕がいなくなったとしても、君は一人じゃないんだって、知ってほしいんだ。」

その言葉を聞いた瞬間、私は胸が痛くてたまらなくなった。彼がいなくなることが現実になるなんて、まだ信じたくなかった。彼の目の前で泣いてしまうことが恐ろしかった。だから、私はただ黙ってうなずいた。

その後、拓海の体調はさらに悪化し、あっという間に病室のベッドに横たわることが多くなった。私は毎日、彼の手を握り、彼に笑顔を見せることを心がけた。けれど、次第に彼の顔色は青白くなり、目もだんだんと虚ろになっていった。

そして、とうとうその日が来た。

彼が最後に目を開けたのは、私が部屋に入った時だった。その目には少しだけ光が宿っていたが、すぐに消えた。

「ありがとう…」

拓海の口から出たその言葉が、私の心を裂いた。彼は何もかも知っていた。私がどれだけ彼を愛しているか、そして彼を失うことがどれほど辛いことか、全てわかっていた。

「拓海、お願いだから、行かないで。」

私の声は震えていた。涙がこぼれ落ち、止めどなく流れていった。けれど、拓海はもう、私の手を握ることもなく、静かに目を閉じた。

その後、彼は静かに息を引き取った。

数日後、私は彼が残した最後の手紙を見つけた。その封筒には、彼の名前が書かれていた。中を開けると、彼が書いた一言だけがそこにあった。

「ありがとう、ずっと愛してる。」

その言葉を読んだ瞬間、私は泣き崩れた。拓海がいなくても、彼の愛は私の中で永遠に生き続けると信じた。私の心に、彼が残した温もりを感じながら、私はこれからも生きていこうと思った。

拓海、あなたを愛している。ずっと、永遠に。