いとなみ

恋は炎であると同時に光でなければならない

恋は炎であると同時に光でなければならない

冬の夜、雪が静かに降り積もる中、小さな教会の鐘が深い音を響かせた。その音を聞きながら、カリンは暖炉の前で一人、手紙を書いていた。机の上には、封筒と古びた写真。写真にはカリンと、もう一人の青年が笑顔で写っている。

「光輝へ」
そう書き出した手紙の中に込められたのは、言葉にできない想いだった。

カリンが光輝と出会ったのは、ちょうど5年前のこと。町の小さなパン屋で、カリンがアルバイトをしていた時だった。

「焼きたてのクロワッサン、まだ残っていますか？」
そう尋ねた光輝の声はどこか柔らかく、それでいて芯のある響きだった。何度か顔を合わせるうちに、光輝が近くの大学で建築を学ぶ学生であることを知った。

彼は夢を語るのが好きだった。いつか自分の設計した教会で、人々が幸せそうに集う姿を見たいと言っていた。カリンはその言葉を聞くたびに、彼の中に灯る小さな炎を感じていた。

光輝の情熱はカリンの心を明るく照らした。それはまるで夜空に輝く星のようで、どんなに寒い日でも、その存在がカリンの心を温めた。

二人はいつしか、毎日のように一緒に過ごすようになった。光輝のスケッチブックをのぞき込んでは、カリンは無邪気に感想を言った。

「この柱、ちょっとごつくない？」
「お、確かに。でもカリンが言うなら修正しよう。」

そんな穏やかな時間が続くと思っていた。しかし、運命は容赦なく二人を試した。光輝は卒業後、海外での研修を命じられたのだ。それは、彼の夢を叶えるために必要なステップだったが、カリンにとっては辛い別れだった。

「行かないで」と言いたかった。だが、光輝の目に宿る希望の光を見て、カリンは言葉を飲み込んだ。

「待ってるね。ずっと。」

それが最後の言葉だった。

光輝が旅立ってからの数年間、二人は手紙を交わし続けた。しかし、次第に手紙の頻度は減り、カリンは光輝の中の自分の存在が薄れていくのを感じていた。

そして一年ほど前、光輝からの手紙が途絶えた。それでもカリンは、彼がきっと夢を追い続けているのだと信じて、返信を待ち続けた。

「恋って、炎だけじゃダメなんだね。」

カリンはひとりごちた。燃え上がる情熱だけでは、人の心を照らし続けることはできない。それは同時に光であり、相手の道を温かく照らし出すものでなければならないのだと、気づいてしまったのだ。

カリンが最後の手紙を書き終えたその瞬間、教会の扉が静かに開いた。

「カリン！」

聞き覚えのある声が響き、カリンは振り返った。そこに立っていたのは、ずっと遠い地にいるはずの光輝だった。雪をかぶったコートをまとい、息を切らしながら彼はカリンの方へ歩み寄った。

「どうしてここに？」

「君が、僕を待っている光だって気づいたんだ。」

光輝の目には涙が浮かんでいた。彼は研修中、たくさんの成功と挫折を経験したが、そのたびに心の支えになったのはカリンの手紙だったという。

「僕が夢を追い続けられたのは君のおかげだ。そして、君のいない人生なんて考えられない。」

光輝は震える手でポケットから小さな箱を取り出した。中には、シンプルな銀の指輪が入っていた。

「カリン、結婚してほしい。」

その言葉に、カリンは息を飲んだ。そして静かに頷き、涙を流しながら彼の手を取った。

恋は炎であると同時に光でなければならない。その二つが揃ったとき、人の心は永遠に温められるのだ。