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春秋花壇

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短い不在は恋を活気づけるが、長い不在は恋をほろぼす

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短い不在は恋を活気づけるが、長い不在は恋をほろぼす

雨がしとしと降る秋の午後、エリカは小さなカフェの窓際に座っていた。机の上には、冷めかけたカフェラテと開かれた手紙が置かれている。紙には整った字でこう書かれていた。

「エリカ、君と離れるのは本当に辛い。でも、必ず戻るから待っていてほしい。」

その手紙を書いたのは、エリカの恋人であり幼なじみの翔太だった。二人は小さな港町で育ち、いつも一緒だった。いつしか恋に落ち、互いに永遠を誓った。だが、翔太が新しい仕事で海外に赴任することになり、その日から二人の距離は物理的にも心の上でも大きく広がっていった。

最初の数ヶ月、エリカは翔太からの手紙や電話を心待ちにしていた。どんなに忙しくても、翔太はエリカの誕生日や記念日を忘れることはなかった。エリカもまた、彼の好きな手料理の写真を送り、自分の生活を共有し続けた。

しかし、次第に連絡が途絶えがちになったのは翔太の忙しさが原因だったのだろう。エリカは最初こそ理解を示したが、次第に自分の中に小さな不安が積み重なっていくのを感じた。彼がいない日々の孤独が、恋の輝きを曇らせていった。

「忙しいのはわかるけど、私はどれだけ彼の中で大事なんだろう?」

ある日、翔太から久しぶりに届いた手紙を読みながら、エリカはそんな疑問を抱いた。手紙の中の言葉はいつも優しく、変わらない愛情を伝えていたが、それだけでは足りなくなっている自分に気づいてしまった。

その頃、エリカの周りには新しい出会いが増えていた。職場の同僚である拓也が、その中でも特に親切にしてくれた。仕事で失敗したときも、拓也はさりげなくフォローしてくれる。彼の優しい笑顔やさりげない気遣いは、翔太がいない空白を埋めるかのようだった。

「翔太さんのこと、まだ待つつもりなの?」ある日、拓也がエリカに問いかけた。

その質問にエリカは答えられなかった。翔太への想いは確かに残っている。それでも、心のどこかで拓也の存在が日に日に大きくなっているのを否定できなかった。

やがて、エリカは翔太に手紙を書くことをやめた。電話が鳴るたびに翔太からだろうかと思っていた頃も、もう遠い過去のように感じるようになった。翔太の存在は彼女の中で「思い出」になりつつあった。

数ヶ月後、翔太が突然帰国した。エリカの前に立った翔太は、以前と変わらぬ笑顔を見せ、「エリカ、ただいま」と言った。

だが、エリカはその言葉に素直に喜ぶことができなかった。「翔太、ごめんね」とだけ言い、彼の手を取ることなく背を向けた。

その瞬間、エリカは確信した。短い不在は恋を活気づけるかもしれないが、長い不在は恋を蝕み、消し去るのだと。翔太もその事実を悟ったようで、追いかけることなく静かにその場を去っていった。

一人残されたエリカは、窓の外を眺めた。雨はやんでおり、薄い日差しが街を照らしていた。その光景を見て、エリカは小さく息を吐いた。

「私はもう、次に進まなくちゃいけないんだ。」

心の中で静かに呟き、エリカはまた新しい一歩を踏み出す決意をした。







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