いとなみ

春秋花壇

文字の大きさ
上 下
1,376 / 1,511

「秋風のロンド」—未来への展望

しおりを挟む
「秋風のロンド」—未来への展望

秋の空はすっかり深く、夕陽が沈み始めるころ、玉響と夕陽は並んで歩きながら、空に広がる鮮やかなオレンジ色を見上げていた。風が少し冷たくなり、周りの木々も秋の終わりを告げるように、色づいた葉を次々と地面に落としている。

「ねえ、夕陽」玉響が静かに口を開いた。「もうすぐ冬だね。寒くなったら、また別の季節が来るんだろうけど、なんだかちょっと寂しい気がする」

夕陽は少し間を置いてから答えた。「確かに、秋の終わりって少し寂しさがあるな。でも、冬の到来っていうのは、また新しいスタートだとも思うんだ」

玉響は彼の言葉を聞きながら歩みを止め、しばらく空を見上げた。すでに寒さを感じ始めた風が、彼女の髪を優しく撫でる。深呼吸をすると、秋の香りとともに、新しい季節が待ち遠しくもあり、少し不安でもあった。

「新しいスタートか…」玉響は考えるように呟いた。「最近、なんだか自分が進んでいる道が見えないことが多くて…でも、いつまでも過去にとらわれてるわけにはいかないってわかってる。未来に向かって何かしなきゃいけないんだよね」

夕陽は玉響の言葉にじっと耳を傾けながら、しばらく黙って歩いていた。その後、ふと足を止めて、玉響の顔を見つめた。「未来を怖がる気持ち、分かるよ。でもさ、未来って、今をどう生きるかで決まると思うんだ。何かを始めるのに、完璧に準備が整ってからなんて、絶対に無理だよ。だから、少しずつでもいいから、今の自分を大切にして、少しでも前に進めるように努力すれば、きっと未来は開ける」

玉響はその言葉に静かに頷いた。夕陽の言葉には、今まで彼と一緒に過ごしてきた時間の中で培われた強さが感じられる。彼女は自分の不安を抱えながらも、少しずつその言葉を胸に刻み込んでいった。

「前に進む、か…」玉響は思索的な表情を浮かべながら続けた。「でも、どうすればその一歩を踏み出せるんだろう」

夕陽はゆっくりと歩き始めた。彼の歩調に合わせて玉響も歩き出す。二人の足音が秋風に包まれながら、しばらく静かな間を作った。夕陽は少し考えた後、軽く肩をすくめるように言った。「最初の一歩が一番難しいんだよな。でも、どんな小さなことでも、始めることが大事だって思う」

玉響は彼の言葉を思い出しながら、少し力を入れて踏み出す。未来へ向かって歩き出すことは、確かに恐れも伴うけれど、それ以上に大切なのは、その一歩を踏み出す勇気だった。彼女はその勇気を持てる自分になりたいと心に誓う。

「私も、少しずつだけどやってみる。何かを始めてみるよ」玉響はそう言って、ぎこちなくも前を向いた。

夕陽は玉響を見つめながら、微笑みを浮かべた。「いいじゃん、少しずつでも前進すれば、それが一番大事なことだから」

玉響はその微笑みに心が温かくなり、少し照れくさそうに笑った。「ありがとう、夕陽。あなたと一緒にいると、何だか勇気が湧いてくる」

二人は再び歩き始め、前方に見える小道を進んでいった。足元の落ち葉がカサカサと音を立て、風が時折木々を揺らす。その音に耳を澄ませると、秋の終わりを告げる静かな時間が二人の間に流れる。

玉響はその歩みの中で、今まで自分が何度も悩んでいたことが少しずつ薄れていくのを感じた。未来に向かって歩き出すことが怖くなくなったわけではない。しかし、夕陽と共にいると、その一歩が少しずつ近づいているような気がした。彼と共に過ごす時間の中で、自分の中にあった迷いや不安が少しずつ整理されていく。それは、まるで風が木の葉をそっと揺らしていくような優しい変化だった。

「私たち、これからも一緒に歩いていけるかな」玉響がふとつぶやくと、夕陽はすぐに答えた。「もちろんさ。これからも一緒に歩いていこう」

その言葉に、玉響はもう迷うことなく頷いた。秋風の中で、二人は未来へ向かって歩き続けた。どんな困難が待っていようとも、彼らは一歩一歩踏みしめながら進んでいく。それが、二人のこれからの物語だった。






しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

季節の織り糸

春秋花壇
現代文学
季節の織り糸 季節の織り糸 さわさわ、風が草原を撫で ぽつぽつ、雨が地を染める ひらひら、木の葉が舞い落ちて ざわざわ、森が秋を囁く ぱちぱち、焚火が燃える音 とくとく、湯が温かさを誘う さらさら、川が冬の息吹を運び きらきら、星が夜空に瞬く ふわふわ、春の息吹が包み込み ぴちぴち、草の芽が顔を出す ぽかぽか、陽が心を溶かし ゆらゆら、花が夢を揺らす はらはら、夏の夜の蝉の声 ちりちり、砂浜が光を浴び さらさら、波が優しく寄せて とんとん、足音が新たな一歩を刻む 季節の織り糸は、ささやかに、 そして確かに、わたしを包み込む

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

感情

春秋花壇
現代文学
感情

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

陽だまりの家

春秋花壇
現代文学
幸せな母子家庭、女ばかりの日常

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

生きる

春秋花壇
現代文学
生きる

処理中です...