いとなみ

春秋花壇

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「そうだ、京都に行こう」突然の紅葉見学

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「そうだ、京都に行こう」突然の紅葉見学

「そうだ、京都に行こう。」

思い立ったのは、金曜の夜だった。夏希(なつき)はリビングで紅茶を飲みながらぼんやりとテレビを見ていた。画面には鮮やかな紅葉で染まる嵐山が映し出されている。もみじのトンネルを歩くカップルの姿が映るたび、胸にぽっかりとした寂しさを感じた。

「京都か……」

そのとき、スマホが振動した。画面を見ると、幼なじみの啓太(けいた)からメッセージが来ていた。

「明日暇?久しぶりにどっか行こうぜ!」

夏希は少し笑って返信した。

「行きたいところある?」
「紅葉見に行きたい」
「じゃあ京都?」

数分後、啓太から返事が来た。

「いいね、行こう!」

こうして二人の突発的な京都行きが決まった。

翌朝、始発の新幹線に乗り込んだ夏希と啓太は、まるで子供のようにワクワクしていた。久しぶりの小旅行、しかも行き先は紅葉が見頃を迎える京都だ。

「で、まずどこ行く?」啓太が隣でスマホを片手に聞いてくる。

「清水寺とかどう?紅葉のライトアップもあるみたいだし。」

「いいね。昼は嵐山に行って、夜は清水寺の紅葉、完璧だな。」

京都駅に降り立った瞬間、秋の冷たい空気が二人を迎えた。駅前の観光案内所で地図を手に入れ、早速嵐山へ向かうことにした。

渡月橋(とげつきょう)の上から眺める景色は、想像以上に美しかった。真っ赤やオレンジ、黄金色の紅葉が山を染め、川面に映り込む。自然が織りなす芸術に、二人はしばし言葉を失った。

「すごいな、こんなに綺麗だと思わなかった。」啓太が呟いた。

「本当だね……写真じゃ伝わらないよね、この空気感。」夏希もため息混じりに答える。

嵐山の竹林を歩きながら、二人は子供の頃の思い出話に花を咲かせた。啓太はいつも夏希を守る側で、小さなトラブルでも率先して解決してくれる頼れる存在だった。それは今も変わらない。

「そういえば、昔もこんな風に紅葉見に行ったよね。近所の神社だけどさ。」啓太がふと口にした。

「覚えてるよ。啓太が拾ったもみじ、まだ部屋に飾ってある。」

「え、マジで?」

啓太の驚いた顔を見て、夏希はクスッと笑った。

夜になると、清水寺はライトアップされ、幻想的な雰囲気に包まれた。寺から見下ろす京都の街並みは、静かな灯りが点々と続き、どこか懐かしさを感じさせた。

「綺麗だなぁ……」夏希が小声でつぶやいた。

隣にいた啓太が、ふいに何かを差し出した。手の中には、もみじの葉が一枚あった。

「これ、持って帰れば?また飾れるだろ。」

「ありがとう。」

夏希はその葉をそっと受け取りながら、心の奥がじんわりと温かくなるのを感じた。

「こういうの、やっぱり啓太らしいね。優しいところ、昔から変わらない。」

「それ、褒めてるのか?」

「もちろん。」

二人は笑い合った。その笑顔が、自然と距離を縮めた。

帰りの新幹線、啓太は珍しく黙り込んでいた。

「どうしたの?」夏希が尋ねると、彼は少し照れたように目をそらした。

「いや……そのさ、今日の紅葉見てたら、なんか思ったんだ。」

「何を?」

「夏希といると、どんな景色でも特別に思えるなって。」

唐突な言葉に、夏希は一瞬言葉を失った。

「なにそれ……急にどうしたの?」

「いや、なんかさ、改めて思ったんだよ。お前のこと、大事だなって。」

その言葉に、夏希の頬がほんのり赤く染まった。

紅葉の季節が終わりを迎える頃、二人の関係もまた新しい一歩を踏み出そうとしていた。京都の美しい景色が繋いだこの一日が、二人にとって永遠に心に刻まれる日になることは間違いなかった。

──だから、京都に行こう。紅葉とともに、愛も色づくから。







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