いとなみ

廊下でぶつかっただけであいつと私が入れ替わった

「廊下でぶつかっただけであいつと私が入れ替わった」

高校の廊下は昼休みの終わり時、誰もが急ぎ足で通り過ぎていく。私もその一人だ。何気なく歩いていたその時、突然誰かにぶつかった。軽く腕を引かれて、私は体勢を崩しそうになった。

「あ、ごめん！」相手は焦った様子で私を支えようとした。その瞬間、何とも言えない違和感が走った。

目の前にいたのは、クラスメイトの大西慎也。スポーツ万能で、少し冷たいところがある男子だ。正直、私はあまり得意じゃない。彼とはあまり話したことがなく、クラスで目立つタイプでもないし、気が合うわけでもなかった。それでも、彼は何故か私に申し訳なさそうな顔をしている。

「大丈夫？」彼の声が耳に入った。

私が答えようとした瞬間、何かが突然、私の体から抜け落ちた。意識が一瞬遠のく感覚。目を開けると、周りの風景が変わっていた。私は驚いて、慌てて自分の手を見た。その瞬間、何かが異常に感じた。

「え？」自分の声が聞こえた瞬間、思わず口を覆ってしまった。

いつもより高い声。手を見て、目の前に立つ自分の体と視界が全く違っていることに気づく。

「お前、どうした？」慎也が不安そうに声をかけてきた。

その時、私はハッとした。これ、もしかして…。一瞬のうちに、私の体が彼のものに入れ替わったことに気づいたのだ。

入れ替わった理由
私は頭を整理しようと深呼吸をしたが、現実が信じられなかった。ここは確かに私の体のはずなのに、何故か目の前の慎也の体が私の体になっている。驚きと混乱が一気に押し寄せてきた。

慎也も、自分が変わったことに気づいているらしく、戸惑っている様子だった。「俺、今、どうなってるんだ…？」彼が呟く。言葉通り、状況がまったく理解できない。

「私も…わからない。」私は今、彼の体で話している。慎也の心配そうな顔を見上げると、どこか不思議な気持ちが湧いてきた。普段、彼の冷たさや無関心さに少し怖さを感じていたけれど、今、この体の中に入ってみると、思った以上に彼が繊細で、怖がっている様子がわかる。

「どうする、これ…」慎也は目を泳がせながら言った。

それから私は、慎也と一緒に急いで教室へ戻ることにした。私の体を奪った慎也と、私の体に入ってしまった私は、どうしてこんなことになったのかもわからず、ただ互いに顔を見合わせて、冷や汗をかきながらその状況を受け入れざるを得なかった。

入れ替わった日常
教室に戻ると、もう少し冷静になった。慎也が私の体になっているのを見て、驚きの気持ちを引き締めた私は、日常に戻ろうとした。しかし、普段の慎也にしかできないこと、私にとっては慣れないことばかりだ。

「おい、大西、今日の宿題やった？」と、同じクラスの友達に声をかけられる慎也（私の体）。私はなんとなく他の学生たちの反応を観察していた。普段の慎也がどういう人間か、少しでも理解したかったからだ。どうしても彼を遠ざけていた私だったけれど、こうして彼の立場に立つことで、少しずつ彼の本当の姿が見えてきた。

午後、慎也の体で体育の時間が始まった。スポーツが得意な慎也の体を借りることで、少し楽しい気分になったが、私にはまだ足りなかった。運動後に思ったことは、まるで慎也がその体で私に何かしらの感情を抱くように感じたことだった。

それに気づいたとき、私は驚くべき思いを抱えた。慎也が心の中で私に対してどう感じているのか、想像もできなかった。けれど、少なくとも私は彼のことを、以前より少しだけ理解できた気がした。

恋の芽生え
夕方、私は慎也と並んで帰ることになった。互いにどうしてこうなったのか、説明できないけれど、少しだけこの不思議な経験を共有している感覚があった。

「お前、こういうとき、どうしてるんだ？」慎也（私の体）が突然話しかけてきた。

「え？」私は思わず答える。「こういう…って？」

「だから、普段の俺に感じてることだよ。俺がどう見えてるかとか、気になるんだろ？」

その言葉に私は驚いた。慎也が私を見ている目の中に、少しの優しさが見える気がした。そして、私はその一瞬を強く感じてしまった。

その瞬間、私ははっとした。この不思議な入れ替わりの中で、慎也と私がただのクラスメートではなく、お互いに少しずつ気づき始めている何かがあることに。何かを感じ、確かに思っていることに気づいた。

あの瞬間、私は初めて気づいた。心の中で、慎也に恋をしているのだと。

結末
数日後、入れ替わりの現象は元に戻った。普通の日常に戻り、慎也と私は元の体に戻った。それでも、私たちの関係は少しずつ変わり始めていた。

彼が私に微笑みかけるその瞬間、私は心の中で確かに感じていた。

私たちの関係は、まだまだ始まったばかりだ。